トヨタは、持続的成長を支える「競争力のある工場」づくりを進めています。以前にも書きましたが、その第一弾がメキシコの新工場です。
新工場は、「シンプル、スリム、フレキシブル」がキーワードで、伸縮自在ライン、床置き可能な小型設備、コンパクトな塗装ブースなど、革新的な生産技術が盛り込まれます。そこには、量を求める工場づくりから、質を求める工場づくりへの転換があります。
「知恵も技術も入れないような設備をつくったおかげで、大変な思いをしました。二度とそういう思いをしないように取り組みます」と、トヨタ専務役員の河合満さんは語りました。
知恵と技術のないラインとはどういうことでしょうか。河合さんは、次のように説明しました。「2002年から07年頃、生産のボリュームが一気に膨らみました。あまりにも急激だったので、新工場立ち上げに国内の人手がとられるなどして、知恵や技術を入れたラインを検証してつくっていく時間がありませんでした。機能を満たすものをとりあえずたくさんいれましたが、それだけではダメでした。今後は、生産の増減に対応しやすいシンプルでスリムなラインにしていくことが重要だと考えています」
河合さんは、この4月、初の技術職出身の役員に就任しました。そこには、トヨタの強いメッセージが込められていると思います。トヨタは、毎年新工場を建設し、年間生産台数が50万~60万台増えていました。台数を追いかけ、工場も力まかせでつくっていました。知恵と技術のない工場がつくられれば、トヨタの考える競争力を確立できません。
河合さんは、トヨタ工業学園の卒業生です。66年トヨタ入社後は、鋳造部で「セルシオ」や「カローラ」などの製造にかかわってきました。本社工場鋳造部長、本社工場副工場長などを経て、2013年1月に技術職トップの技監になりました。
いってみれば、河合さんは、“現場の神様”です。手作業のコツや勘で作業を進めてきた河合さんは、一つひとつ、ものをつくっていくことの大切さを知っているはずです。この間、現地現物が忘れられていたと感じていたのではないか。トヨタが持続的に成長するためには、製造工程の原理原則が分かる人を育てなければいけないと考えていたのではないか。
「52年間の蓄積を伝えることも私の役目です」と、河合さんは語っています。19年にスタートするメキシコの新工場に、どんな知恵と技術が盛り込まれるのか。いかなる体質の強化が見られるのか。稼働率や生産性の向上はどこまで進められるのか。期待されるところですね。