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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

岩の原葡萄園物語3 ―おいしいワインの味わい方―

岩の原のワインの試飲をしました。
ご存じのように、ワインの評価には、色、味、香りはもちろん、さまざまな基準がありますよね。
基本的な味わい方を、“ワイン博士”の岩の原葡萄園社長の棚橋博史さんに丁寧に教えていただきました。

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まず、色です。
「基本的には、色は濃い方がいい。新しいものは、薄い色なんですね。ワインの熟成が進むと、茶色、黄色系が出てきて、マホガニー色、レンガ色、琥珀がかった赤みなどと表現されるようになります」

次に、香りです。
「まず、普通に呼吸をする要領で、静かに香りを嗅ぎます。それから、グラスのなかのワインをくるくるっと回してから吸うと、また違う香りになる。香りは、重たいものほど下に、軽いものほど上にあって、先に出てきます。自分が分析器になったつもりで、上から順番に、どういう香りがあるかをみていきます」

味はどうか。
「10秒ほど口に含んで、パッと吐きます。口に含んだ直後の、瞬間的な感覚が“アタック”です。それが、口のなかで伸びて、すぐにストンと落ちるか、違う味わいが出てくるか。この中盤を“エボリューション”といいます。そして、吐いたあとの余韻が“フィニッシュ”です。味は、この三段階で評価します」

第1回目で書いた通り、「岩の原葡萄園」は、今年の「日本ワインコンクール」で、二つの金賞を獲得しました。第2回に写真を掲載した「ヘリテイジ」と「マスカット・ベーリーA」です。棚橋さんの説明を聞きながら、この二つを試飲してみました。

棚橋さんは、次のように話します。
「『ヘリテイジ』と『マスカット・ベーリーA』は、まったく異なるコンセプトで、違う味わいのものを目指してつくったワインです。わかりやすくいえば、『ヘリテイジ』はグローバル基準、『マスカット・ベーリーA』はローカル基準です。その両方が金賞を獲ったということで、私どもも驚いているところです」
同じ葡萄園で、同じ種類のブドウを使ったワインでも、まったく異なるワインをつくることができるのは、高いブドウ栽培技術や醸造技術があるからこそなんですね。

まず、「ヘリテイジ」です。色が濃く、香りは複雑です。飲むと、ボディが効いている。ここまではわかる。
「ワインには、筋がないとダメなんです。口に入れたときにハッキリと形、骨格のようなものがないと、ワインは成立しない。
例えばボルドーのワインは、カベルネ・ソーヴィニオンに対して、メルローとプティヴェルドなどを入れますが、プティヴェルドをほんの数%入れることで骨格ができます」

「ヘリテイジ」は、基本は、善兵衛さんがつくった「マスカット・ベーリーA」という品種を使っているということですが、骨格をつくるために加えるものも、従来の欧州品種から、善兵衛品種の「ブラッククイーン」を使うようにしたそうです。
「比率は、試行錯誤の結果、いいところまできているんです」と、棚橋さん。
つまり、「ヘリテイジ」は、100%善兵衛品種からつくられたワインなんですね。

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※善兵衛さんの交配したブドウの記録

「『ヘリテイジ』は、グローバル基準で求められる凝縮感や複雑味を出すために、いろいろな要素技術を入れています。例えば、新しい樽を使うと力強くなるといわれますが、使い過ぎると個性が失われる。本来の味わいをもちつつ、力強さを備えるために、新樽率を試行錯誤してブレンドしています」

「ヘリテイジ」は、グローバル市場で闘えるワインを目指しています。
香りや色、味をみながら、きめの細かい温度や湿度の管理を行い、つくり込んでいく。細かい品質管理は、日本人の得意とするモノづくりに通じるところがあります。いわば、お酒づくりも、日本人の得意とする分野です。

続いて、グローバルに対して、ローカルをねらった「マスカット・ベーリーA」です。これは、品種の名前でもありますが、ワインの商品名でもあります。
「『マスカット・ベーリーA』によって目指しているのは、緻密で繊細、やわらかさがあり、『品種の特徴』と『土地の特徴』が表現されているワインです。
『品種の特徴』とは、善兵衛さんの品種そのものです。『土地の特徴』というのは、雪の多い上越の地。そこに住む人々も含めて、すべての環境であり、それを表現するということです。だから、有機栽培の畑で育てたブドウを、“自生酵母”で醗酵させているんですね。
最善を積み重ねていく『ヘリテイジ』に対し、『マスカット・ベーリーA』は、丸裸の自分を見てもらおうというつくり方をしています。こねまわさずに、テロワール(土地)を表現するんですね」

飲んでみると、まったく「ヘリテイジ」とは味が違います。まろやかさよりストレートで土の匂いがするといったらいいか……。なるほど「土地を表現している」というのが、何となくわかるような……。何ともいえず、愛しい味わいです。

さらに、ブドウを凍結させてしぼることで、糖度の高い果汁をとり、発酵させた「レッドミルデミーニュ」も試飲しました。いわゆるデザートワインです。
「甘いワインですから、食後酒やデザート酒にいいんですね。アイスクリームやケーキとの相性はバツグンです」と、棚橋さん。

これらのワインに使われているブドウは、すべて、善兵衛品種です。そのウラには、善兵衛さんの執念の開発物語があるんです。

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