今年流行した単語に「IoT(モノのインターネット)」という言葉がある。
「IoT」に関する技術進歩が、世界の製造現場を大きく変えようとしているといわれています。日本は、この流れをどうとらえたらいいのでしょうか。
ドイツの国家プロジェクト「インダストリー4.0」は、工場を全自動化する「スマートファクトリー」の実現を目指しているといわれますね。現に、シーメンス、ボッシュ、フォルクスワーゲン、ドイツテレコムなど、ドイツの主要企業が参加して取り組みを進めています。
米国では、ITから製造を管理、制御する取り組みの実現に向けて、例えば、GEが「インダストリアル・インターネット」を推進しています。
背景には、インターネットにさまざまなモノが接続可能になり、リアルな世界をバーチャルな世界からコントロールできるようになったことがあげられます。いわゆる「IoT」ですよね。
例えば、生産機器や測定機器、製造ラインのロボットなどから上がってくるデータをリアルタイムに収集・解析することにより、「スマートなモノづくり」が実現されようとしています。
「IoT」すなわち、ドイツの「インダストリー4.0」や米国の「インダストリアル・インターネット」に乗り遅れた日本の製造業は、競争力を失うのではないかという悲観的な声が聞かれます。そうでしょうか。
私は、必ずしもそうとは思いません。製造現場がうまく「IoT」を使いこなすことによって、高度な暗黙知に支えられた生産ノウハウを持つ日本の製造業は、より強くなるのではないかという見方さえできると思っています。
つまり、日本は「IoT」を活用して、世界でも類を見ない「スマートなモノづくり」を実現することができるのではないか。日本の強さの源泉である製造業の競争力を維持することができるのではないか。
一例をあげてみましょう。
「大きな事業機会がやってきたととらえています。単品でビジネスをするのではなく、もっと大きなシステムとして、ソリューションをビジネスにしていきたいと考えています」
と、パナソニック・オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社、副社長の青田広幸さんは、2015年10月30日に都内で開かれた「スマートファクトリーソリューション事業概要説明会」の席上、語りました。
※パナソニック・オートモーティブ&インダストリアルシステム社副社長青田広幸さん
パナソニックは、顧客が各国で展開する製造拠点をつなげて、現場で起きている問題を自動で把握し、遠隔で問題を解決するためのソリューションを提供しています。工場設備をネットワークにつなげることにより、設置、サービス、メンテナンスなど、パナソニックのいう“お困りごと”の解決にあたっているんですね。
世界中の工場がつながれば、最適なモノづくりを実現できます。例えば、日本の司令塔から中国の生産拠点を管理することができます。生産計画に連動したモノづくりも可能になります。品質や生産性向上など、これまでにない生産改革が期待されます。
パナソニックは今後、「スマートファクトリー」のノウハウを製造現場だけでなく、物流や小売り、食品加工など非製造業にも広げ、2018年度に売上高4000億円を目指す計画です。
工場のスマート化は、ドイツや米国などの先進国だけでなく、じつは新興国でも始まっています。
いずれにしろ、日本は「トヨタ生産システム」など、先進的なモノづくりで世界をリードしてきました。その強みを生かして、どこまで製造現場を進化させられるか。「IoT」に関する技術進歩は、日本の製造現場を一層飛躍させるチャンスになるのではないでしょうか。