私は、約8年間ブログを続けていますが、ロングテールで読まれている記事の一つに、「千葉市の貸し自転車失敗から何を学ぶか」(2014/8/16)という記事があります。
千葉市が13年度から社会実験を進めていた「幕張新都心コミュニティサイクル(愛称マックル)事業」について、市民の善意に頼った制度設計のマズさを指摘する内容でした。
そこで、今回は失敗例ではなく、ベストプラクティスを取り上げてみましょう。岡山市が運営するコミュニティサイクル「ももちゃり」です。
※「ももちゃり」のサイクルポート
「ももちゃり」がスタートしたのは2011年9月です。当初は、事前にインターネットで利用登録を行う必要があったことや、支払いがクレジットカードのみだったこと、市内7カ所しかサイクルポートがなかったことなど、制度設計のまずさもあって、1日の平均利用件数はわずか14.1件。回転率は1日0.14回転という状態でした。
しかし、岡山市は、市民や観光客らの声を取り入れながら、改善策を打ち出し、制度設計に磨きをかけていきました。
例えば、現在の「ももちゃり」は、JR東日本のSuicaやJR西本のICOCA、セブンイレブンのnanaco、イオンのWAONなどのFelica対応ICカードと、携帯電話さえ用意すれば、駅周辺32カ所にあるサイクルポートの端末機で5分もあれば利用者登録ができますよね。
また、1時間100円、1日(24時間)200円など、さまざまな料金プランが用意されていて、支払いは現金、Felica対応ICカード、クレジットカードなどで済ますことができる。住民や観光客など、誰もが手軽に利用できる仕組みをつくったわけですね。
その成果は数字にも表れています。15年4月から8月の「ももちゃり」の1日の平均回転率は3.49回転です。
国土交通省が14年2月に公表した調査によると、全国54都市でコミュニティサイクルの本格導入が進められていますが、その回転率は平均0.4回とされています。これと比べれば、「ももちゃり」のスゴさがわかりますよね。
「ももちゃり」の成功は、制度設計の妙はさることながら、自転車シェアリングの仕組みをまちづくりの構想にしっかりと組み込んだことが大きいと思います。
岡山駅周辺では、90年代から中心市街地の活性化に向けた取り組みが行われてきました。岡山市を本拠地としてバス事業やタクシー事業、運送業、スーパー事業を多角展開する両備グループが「歩いて楽しいまちづくり」運動を進めるとともに、都心居住の促進を図ってきました。
また、14年12月には駅前にイオンモールがオープンし、中心市街地のにぎわい創出に大きなインパクトを与えています。
岡山駅周辺は、日本一短い路面電車として知られる「岡山電気軌道」が走っているほか、バス会社7社が路線バスを運行しています。ペダルを漕ぐのに疲れたら、サイクルポートに自転車を返却し、路面電車やバスで駅に戻ることもできるんですね。
もっとも、海外に目を移せば、パリやニューヨークの自転車シェアリングの回転率は、じつに6回とか8回ともいわれます。その意味で、岡山市にもさらなる努力が必要です。
ただ、「ももちゃり」がコンパクトシティの創造、ひいては、地方創生のモデルになるのは間違いありませんね。