シャープの取締役会は昨日、とりあえず、鴻海案の受け入れを正式に決定しました。今回の鴻海と産業革新機構の闘いは、なぜ、鴻海に軍配があがったのでしょうか。あらためて考えてみましょう。
鴻海案に決定したのは、再三指摘してきたとおり、主力取引銀行のみずほおよび三菱東京UFJ銀行が鴻海案についたからです。では、なぜ、彼らは鴻海案に賛成したのか。その背景にあるのは“カネの論理”です。
鴻海案は、主要取引銀行に痛みを求めなかった。鴻海の郭台銘会長は、「銀行にビタ一文損をさせない」と約束しました。つまり、これは、銀行にしては“おいしい話”です。
産業革新機構案は、違った。銀行に対して、2250億円の優先株の償却を求めました。まあ、企業再建にあたって、銀行に債権放棄が求められることは、しばしばあります。したがって、これ自体、別に批判はできません。そのうえ、さらに1100億円追加の債務株式化を求めた。
革新機構案は、バックにある経産省、ひいては国としては、「日本の技術を守る」ために、いわば、銀行に対して “日の丸論理”のもとに協力を求めたといえなくもありません。
というのは、シャープの液晶技術、なかでも省エネ半導体の「IGZO」は“日本の宝”といわれています。それに、経済産業省はかねてから、いまなお8社もあり、過当競争を続ける日本の電機業界を再編して、生き残り策を模索してきました。
今回、シャープの白物家電に東芝の白物家電を統合させてわが国の家電業界再編を促すというシナリオを描いたわけですね。
しかし、“資本の論理”からいえば、民間企業の救済に、国が介入するのはケシカランとなります。また、シャープが鴻海に買われても、淘汰されて消滅しても、それは“資本の論理”からいえば、正しいことだというわけですね。
グローバル経済のもとでは、産業革新機構の“大義”は通用しなかったともいえますね。
というのは、安倍晋三政権が掲げた経済政策、アベノミクスの成長戦略の一つが「コーポレートガバナンス」の強化でした。簡単にいえば、日本の市場は、整えられた「オープンな市場」であることをアピールし、海外からの投資を呼び込もうという考えです。これも、いわば、“資本の論理”ですよね。
現に、今回のシャープの支援受け入れ先に関して、林幹雄経済産業相は、2月23日に「国が後押しすることはない」と断言し、静観する立場を明確にしました。
鴻海案が決まったあとも、「決めるのはあくまでもシャープ」「外資によってどう発展するか注視したい」と発言しました。
林さんの言動は、安倍晋三政権の意を汲んだ、“政権の意思”だったと見ていいでしょう。産業革新機構にしてみれば、後ろから鉄砲を撃たれたような格好ですわね。
シャープはこの先、いったい、どうなってしまうのか。というのは、鴻海は、調印を延期しました。買収にあたって買い叩こうという“条件闘争”を仕掛けているようにも見えます。つまり、足元を見られている。気づけば、鴻海の思う壺……に、はまっていなければいいのですがね。