サントリーの研究開発の歴史は、1919年、創業者の鳥井信治郎が社長直属の研究組織を設置したことにさかのぼります。
二代目社長の佐治敬三は、鳥井信治郎の情熱を受け継ぎ、終戦翌年の1946年、当時の民間企業としては珍しい研究財団、食品化学研究所を設立しました。それがサントリー生命科学財団の前身です。終戦直後の話です。先駆的な取り組みといっていいでしょう。
「サントリーワールドリサーチセンター」には、前回触れたように、3つの事業会社のほか、「公益財団法人サントリー生命科学財団」が入っています。
二代目社長の佐治敬三は、阪大理学部の出身で本当は研究者になりたかったといわれています。
佐治がその夢を思い起こしたのは、恩師小竹無二雄教授の「エトバス ノイエス(つねに、何か新しいことに挑戦しろ)」という言葉を聞いたことがきっかけで、その小竹教授を理事長に迎えて、有機化学を基盤とする食品化学研究所をスタートさせたんですね。
佐治は、「これからの日本は学問や文化を通じて、世界の平和と繁栄に貢献していくべき」という考えのもとに、「ホームサイエンス」という小冊子を発刊して、広く社会や家庭に科学知識を普及させていきました。
その後、1979年、米国コロンビア大学の中西香爾教授を迎えて、「サントリー生物有機科学研究所」に名称を変更。生物有機化学分野での生命現象に関わる基礎研究をもとに、人の健康と環境について、大学の研究機関などと協働して問題解決にあたったんですね。
2011年、「公益財団法人サントリー生命科学財団」となり、2015年に、けいはんなの新拠点に移転したというのが、歴史的経緯です。
研究室には、タンパク質や脂質など、生体分子の構造を分析する装置が置かれています。また、核磁気共鳴分光計といって、強い磁場をかけて生体分子の動的構造を見る装置もあります。一台2億5000万円するそうです。
遺伝子発現やゲノム解析に使う次世代シーケンサーも完備されています。
こうした研究事業と同時に、「サントリー生命科学財団」では、博士客員研究員制度や大学院連携講座を設けて、科学人材を育てています。また、学生の教育や実験研修に力を入れているほか、研究助成、大学院生への奨励金、学術集会への助成も行っています。
いま、世界では地球環境問題、食糧・水問題などが拡大しています。そうした問題を解決に導くのは、科学技術の進化です。
サントリーは、科学技術と生活、文化、自然環境の融合によってつくられる、未来の社会に向けて歩みを進めているんですね。