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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

<ふるさと革命①>インバウンド誘致は高山市に学べ!

政府は、アベノミクスの成長戦略の一環として、観光政策を推進しています。
なかでも重要なのが、インバウンド(外国人旅行者)の獲得ですね。

政府が当初掲げた2020年に2000万人誘致というインバウンドの目標は、来月にも、4年前倒して達成が確実視されています。現在、2020年に3000万人、2030年に6000万人という高い目標が掲げられています。
目標達成で重要なのが、誘致戦略ですよね。例えば、都市部に集中するインバウンドをいかに地方に誘導するか。

いま、日本中の観光都市がインバウンド誘致作戦を練っています。そのなかで、すでに、国際観光都市として大きな成功を納めている地方都市があります。ご存じでしょうか。
岐阜県高山市なんですね。

2015年、人口約9万人の高山市に、約36万人の外国人観光客が訪れました。
私は昨年と今年、2度にわたって高山市を訪れましたが、ホテルも土産物屋も飲食店も、もう外国人旅行者だらけ。聞きしに勝る国際観光都市ぶりです。

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※JR高山駅前の観光案内所

高山市の観光戦略には、いかなる秘密があるのか……と思いきや、じつは、その取り組みは決して奇をてらうものではありません。

高山市は、1970年の旧国鉄の「ディスカバージャパン」をきかっけに、全国的な知名度を獲得しましたが、80年から81年にかけての“豪雪”で、観光客は15%も減少します。

観光を一時的なブームに終わらせまいと、立ち上がったのが、高山商工会議所名誉会頭の蓑谷穆さんです。15年にお会いしましたが、今年4月、81歳で亡くなりました。

スバリ、高山市が国際観光都市として成功した最大の要因は、「民間主導」にあります。
蓑谷さんは、任意団体「高山観光協会」を社団法人化し、観光協会の事業費を会員の自己負担としました。年間予算3000万円のうち、市の補助金は370万円程度にすぎません。当初、反対意見はたくさんありましたが、これによって、会員に当事者意識が生まれ、観光都市化を一気に進める原動力となりました。

さらに、国内観光だけでなく、早くからインバウンド誘致に取り組みました。
「日本の人口が減少局面を迎えるという人口予測は、80年代から目に見えていましたよね。ですから、国内だけでは、ジリ貧になると考え、外国人観光客の誘致に積極的に力を入れました」と、蓑谷氏は語りました。

もっとも、民間主導のパワーは、観光協会だけではありません。
国際観光都市のもう一人の立役者、老舗旅館「田邊」の社長で、長らく飛騨高山旅館ホテル協同組合のトップを務めた田邊信義さんは、東京出張の折、有楽町駅前の東京交通会館にある日本政府観光局(JNTO)のオフィスをアポなしで突撃訪問し、「国際観光のやり方を教えてほしい」と直談判するなど、積極的に外部とのネットワークを築きました。

さらに、高山市には日本を代表する飲食店があります。
JR高山駅から北西方向へ徒歩約3分。創業50余年の中華料理店「平安楽」です。

「平安楽」は、世界最大の旅行サイト「トリップアドバイザー」が発表した「外国人に人気の日本のレストラン2016」で、堂々の一位に輝きました。

訪れてみると、変哲もない店で、一見、どこの町にもある赤提灯風の居酒屋です。
「いらっしゃいませ、休んでってください。眼鏡が曇ってますんで、ティッシュ持ってきましょうかね」
と、女将の古田直子さんが、フレンドリーに出迎えてくれました。

古田さんは、次のように話しました。
「昔から、高山を訪れる外国人旅行者はチラホラいらっしゃったんです。最初はどうしていいかわかりませんでしたが、何年かやっているうちに、自分たちが思うよりも楽に構えてサービスをすればいいことに気付いたんですね。ただ、言葉はちょっと勉強しておかないかん。英語をみんなで勉強してみるかなというので、旅館や飲食の女将が集まって勉強会を始めたんです。でも、基本は独学ですよ。身振り手振りでコミュニケーションを取りながら、現場で少しずつ身に付けていったんです」

いまや、「平安楽」の来店者のうち7割から8割を外国人客が占めているといいます。

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※「平安楽」の店内

「平安楽」をはじめ、高山市の飲食店や旅館のサービスに学ぶべきは、日常のありのままが、高い評価につながっているということなんですね。
当たり前のサービスを当たり前に。アットホームな雰囲気そのものが、外国人旅行者を魅了している。「平安楽」は、リピーターも増えている。

高山市の「民」の強さは、外国人旅行者との付き合いを楽しみながらも、絶えずひたむきに努力し続けているところにあると思います。
彼らの人柄や、彼らがつくりだすアットホームな町の雰囲気。それこそが、高山市が誇る最大の観光資源といっていいでしょう。

一方、「官」すなわち高山市も、民間主導の観光都市づくりを、市をあげてサポートしてきたんですね。
1960年以降、世界の4都市と姉妹・友好都市提携を結び、観光案内所を充実させるなど、いまなお地道な努力を続けています。
現在市長を務める國島芳明氏は、海外へのトップセールスにたびたび出かけます。14年度は、じつに、50日弱を海外行脚に費やしたというから驚きですよね。

90年には、英・仏・独・韓・中の5カ国語の観光パンフレットを作成。97年からは、インターネットを使った英語での情報発信をスタートし、現在、英、中(簡体字、繁体字)、韓、独、仏、伊、ポルトガル、露、タイ、スペイン、ヘブライの計12言語に達します。

「民間主導」を「官」がサポートする。そして、草の根レベルの地道な努力を、長期間にわたって続けてきたからこそ、現在の国際観光都市、高山があるんですね。

 

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