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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

<ふるさと革命⑤>高松丸亀町商店街の復活劇

地方都市において、その地が元気であるかどうかの指標の一つとなるのが、中心市街地の商店街の活気です。商店街は、町の顔ですね。
シャッター街化が進み、暗いアーケードと空き店舗が立ち並ぶ光景は、地方の活力喪失を如実に示していますよね。

しかし、シャッター街から甦った例外的な商店街があります。
四国・香川県高松市の丸亀町商店街です。

私は取材で、丸亀町商店街を訪れたことがあります。
ガラス張りの屋根に覆われたアーケードには、高級ブランドやおしゃれな雑貨店、ナショナルチェーンの店舗やホールが並び、東京・青山を散策しているのかと錯覚するほどです。

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※高松丸亀町商店街のアーケード街

丸亀町商店街の挑戦が始まったのは、1988年です。
バブルの全盛期、商店街は絶好調で、売り上げは右肩上がりでした。誰もが、明るい未来を信じて疑わなかったころ、一人、危機感を強くもっていた男がいた。
当時、高松丸亀町商店街振興組合理事長を務めていた、鞄屋を営む鹿庭幸男さんです。

従来、四国、本州間の物流は船舶に頼らざるを得ず、大手資本の総合スーパーは四国へ進出していませんでしたが、この年、瀬戸大橋が開通したんですね。商店街にはライバルがいませんでしたが、そうはいっていられなくなると、鹿庭さんは考えたんです。

鹿庭さんは、若手二人を巻き込みます。Uターン組で、老舗電器店「野田屋電機」の次男坊、商店街振興組合専務理事(現同理事長)の古川康造さんと、商店街振興組合再開発担当常務理事の明石光生さんで、靴屋の息子。後にうどん屋に転業します。彼らが、丸亀町商店街の再生を引っ張りました。

90年代に入ると、鹿庭さんの予見した通り、丸亀町商店街の通行者数は激減し、売り上げは半分以下に落ち込みました。これを受けて、商店主たちは、立ち上がるのです。

三人は、99年に施行された「中心市街地活性化法」に基づく「まちづくり会社」である「高松丸亀町町づくり会社」を設立しました。日本で初めてのことです。
商店街振興組合が95%を負担し、高松市の出資を5%に抑えることで、「住民主体」を貫きました。

画期的だったのが、商店街の土地の〝所有権〟と〝利用権〟を分離する仕組みをつくったことですね。
まず、商店街の地権者たちが設立した街区単位での共同出資会社は、地権者と「定期借地権」契約を結び、60年間の〝利用権〟を取得する。つまり、再開発にあたって、一軒ごとにペンシルビルを建てるのではなく、共同で土地利用を図り、商業ビルを建設し、魅力的な町づくりを目ざしたわけです。

そして、専門家集団の「まちづくり会社」に、商業ビルの整備から合理的なテナントミックス、効率的オペレーションなどの業務を一括委託したんですね。

古川さんたちが最も苦労したのは、都市計画法や建築基準法、道路交通法、出資法など、「規制の壁」との戦いです。
高松市役所に商店街再開発の相談を持ちかけると、「再生プランは必要ない」と門前払いを食らいます。県庁に持ち込んでも聞く耳をもって持らえなかった。古川さんは、通商産業省(現経済産業省)に乗り込むんです。
幸い、通産省の若手官僚が、興味を示し、都市計画や商業、流通、金融など、さまざまな分野の学識経験者、新たなアイデアを持つ第一線のスペシャリストを紹介してくれました。

「住民主体」の町づくりマネジメント手法を専門とする都市計画家の西郷真理子さん、「定期借地権」のアイデアを提供した現早稲田大学総長の鎌田薫さん、「まちづくり会社」の構想を紹介した元中小企業庁計画課長で、現東京理科大学教授の松島茂さんらです。

彼らのサポートを受けながら、1990年に「高松丸亀町商店街再開発計画」を策定。全長450メートルの商店街をAからGまで7つの街区に分け、段階的に開発に乗り出し、06年、ようやく、前出の青山のようなA街区オープンにこぎつけたんですね。

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※丸亀町商店街内の広場を覆うクリスタルドーム

商店街の再生にとどまらず、ビルの4階、5階に“自治会率”診療所「丸亀町病院」を設け、ドクターを自治医大から招き、マンションの入居者に対して在宅医療を提供する仕組みをつくっています。

町の再開発を、従来のような効率第一、経済合理性を求める大手デベロッパー任せることなく、あくまでも「住民主体」を貫き、自らの手で町づくりに果敢に挑戦した“丸亀町方式”に、学ぶべき教訓は少なくありません。

 

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