政府は今日、訪日外国人旅行者(インバウンド)が、今年に入って2000万人に達したと発表しました。
ビザの発給要件緩和など、国をあげた取り組みによってインバウンドは急増しています。
しかし、2020年に4000万人、30年に6000万人という目標を達成するためには、まだ多くの課題があるんですね。
日本が観光立国として成功するためには、訪れる外国人の視点に立ち、適切なアピールポイントを抑える必要があるのではないでしょうか。
そのヒントを与えてくれるのが、日本に暮らす外国人たちですね。彼らは土着の人々にはない新しい視点で地域を見ます。彼らのなかには、日本人の凝り固まった考え方に新風を吹き込む“地方創生外国人”たちが多くいます。
ビヨン・ハイバーグさんは、その一人。大阪のど真ん中、通天閣の足元で包丁専門店「タワー・ナイブズ・オオサカ」を経営している。
今年5月、「タワー・ナイブズ・オオサカ」を訪れました。昭和の香りのする新世界の商店街の一画に、彼のお店はあります。店内にずらりと並ぶのは、大きさや値段のさまざまな和包丁です。
彼は、和包丁の魅力にとりつかれているんですよね。
日本には、日本刀以来、伝統的に優れた刃物の生産技術や文化があります。ところが、その刃物文化は近年、大量生産の安価な包丁の普及によって衰退傾向にあるんですね。
ハイバーグさんは、この状況に警鐘を鳴らしているんですね。堺市をはじめ、岐阜県関市や新潟県三条市など包丁の名産地でつくられた刃物を、オオサカから世界へ売り込んでいるんです。これは、いったい、どうなっているんでしょうか。
ハイバーグさんは、カナダ生まれデンマーク育ち。若い頃に世界中を旅し、92年、23歳のときに日本にやってきました。全国を旅してまわった末、人情の厚い大阪の町が気に入って住み着くと、バーテンダーや英語教師、商社などを転々とする。
いくつ目かの職場の商社で働いていたとき、彼は、スイス製の砥石のようなものを入手し、刃物を扱う企業に売り込みにいきました。すると、現れた担当者はいったんです。
「その商品はいりません。だけど、あんた、ここで働いてみない?うちのモノを輸出する仕事を手伝いませんか」
その企業は、堺の包丁を扱っていた。担当者は、その場で和包丁を一本手にとると、置いてあった紙を、削り取るように切ってみせた。薄い紙を、さらに半分の薄さに切ったわけですよ。細長く、紙の表面が切り取られ、元の紙には、穴も開いていません。
「エーッ!と思いました。日本の刃物の切れ味のすごさは、そのときまで見たことがなかった。これはすごいぞと。このすごさを、海外に説明するべきだと思いました」
ハイバーグさんは、和包丁の切れ味に一気に魅せられ、その仕事を手伝うことにしたんです。
包丁の奥深さにハマったハイバーグさんは、売り込み先に商品を詳しく説明するため、ショールームがほしいと思うようになったんです。しかし、会社にショールームの必要性を説いても理解してもらえず、思い切って私設ショールームをつくっちゃった。
そして、数年後には、ショールームに多くの外国人旅行者が訪れるようになった。偶然訪れた外国人旅行者たちが、ショールームの写真をSNSで拡散したことがきっかけです。
ハイバーグさんは、2012年に独立し、現在の店舗「タワー・ナイブズ・オオサカ」を構えた。いまや、客の8割以上が外国人。
「日本にはいい鋼があって、鍛冶とか研ぎの職人がモノづくりにこだわって包丁をつくっている。そこがすごい。日本の職人の技、頑固さ、完璧主義はすごい。そのワザは世界に通用します」
とは、彼のコメントです。
じつは、以前は、欧州の料理人は、切れ味が鋭すぎるとして和包丁を嫌う傾向があったといいます。ところが、近年、より切れる包丁を求める外国人が増えているんですね。
理由の一つが、世界的な和食ブームです。13年、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたこともあって、世界中で和食が注目され、和包丁の引き合いが増えている。
和包丁が、世界から見てこれほど魅力的であったとは、日本人は、ほとんど気づいていなかった。外国人だからこそ、その魅力に気づいたんですね。
ハイバーグさんは、15年夏、東京スカイツリーの「ソラマチ」内に第2号店「タワー・ナイブズ・トウキョウ」を構えた。
大阪、東京の拠点での販売に加え、彼は、数十本の包丁を携え、海外出張も精力的にこなしている。
外部からの視点を受け入れ、自らもまた外に目を向ける柔軟な姿勢こそが、インバウンド誘致や地方創生に取り組む第一歩といえるでしょうね。
片山修著『ふるさと革命――“消滅”に挑むリーダーたち』詳細ページ
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