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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

<ふるさと革命⑥>漁業の復活に賭けるCSN地方創生ネットワーク

先月末、居酒屋チェーン「はなの舞」を展開するチムニーが、鮮魚流通ベンチャーのCSN地方創生ネットワークと業務提携し、同社の「超速鮮魚」の調達網を使って鮮魚を確保する――というニュースが報じられました。

「はなの舞」は、私も、ときどき利用することがありますが、これは、いったいどういうことでしょうかね。

この業務提によって、「はなの舞」は、魚が水揚げされてから消費者の口に入るまで2、3日かかっていたところが、最短で当日に入るようになるというんですよね。
これを機に、チムニーは、首都圏で「超速鮮魚」を先行導入していましたが、地方にも広げるといいます。
この「超速鮮魚」を展開するCSN地方創生ネットワークの創業社長、野本良平さんは、第一次産業事業者の所得向上と活性化を通じて、地方創生を実現しようと奔走しています。

なぜ、流通改革によって地方創生が可能なのでしょうか。
「第一次産業の所得が安定し、魅力的な職業になれば、若者が地方に帰ってきて後継者が増えます。漁業や農業が持続可能な産業になれば、第一次産業に依存する地方は、元気になる。これが、真の地方創生です」
と、野本さんはコメントします。

「超速鮮魚」の仕組みを見てみましょう。
野本さんは、2015年9月、羽田空港第2ターミナル沿いの航空貨物ターミナル施設内に、鮮魚加工などを行う「羽田鮮魚センター」を設置した。
これによって、早朝に地方で獲れた魚は、CSN地方創生ネットワークの手配したクルマで地元空港へ運ばれ、飛行機で羽田空港に届くや、数十分後には「羽田鮮魚センター」で加工され、出荷されて、夕方には都内飲食店や食品スーパーに並んで消費者の口に入るという仕掛けなんですね。

羽田から地方にも出荷します。「羽田鮮魚センター」で詰め替え後、国内線に乗せて地方にも空輸し、やはり即日、地方都市のスーパーなどの店頭に並ぶ。
16年4月には、海外展開を開始し、国際線に乗せてシンガポールやベトナム・ハノイなどの都市へ空輸しています。中国や東南アジア圏であれば、当日のうちに消費者の口に入るんですね。

さらに、CSN地方創生ネットワークは、オンラインシステムの「羽田市場」を運営しています。漁師が、獲った魚を「羽田市場」に登録すると、CSN地方創生ネットワークのバイヤーがそれらを買い付ける。CSN地方創生ネットワークは、北海道から沖縄まで全国各地の漁師約700人と契約しており、漁師から直接買い取って、販売先に届けています。
これが、冒頭の「超速鮮魚」なんですね。

漁師と消費者を直接つなぐ、いわゆる流通の“中抜き”によって、鮮度のよい高付加価値の魚を適正価格で買い取り、販売することが可能になったんですね。

こうした流通の仕組みは、第一次産業従事者自らがつくることは難しいですよね。
野本さんは、流通のプロです。14年にCSN地方創生ネットワークを創業するまで、上場企業の役員でした。しかし、安定した地位より、リスクをとって新規事業をゼロから築く道を選びました。日本の第一次産業に対する危機感と、地方創生にかける熱意があるんです。

野本さんの実家は、業務用食品の二次問屋でした。高卒で手伝いはじめ、その後、工場を借りてメーカーに進出。中国から農産物や水産物の加工品を仕入れて卸す貿易ビジネスなどを手掛けます。野本流の仕事術の基礎は、自ら現場を走り回り、這いずり回って、知識と経験を蓄積しながら、つくり上げてきたものなんですね。

数回の転職を経て、野本さんは、飲食店チェーンで流通改革を手掛け、朝獲れた魚がその日のうちの消費者の口に入る「朝獲れ」を実現させます。
「この業態は大ヒットし、朝獲れた新鮮な魚を、都会で消費するというマーケットは大きいことがわかりました」(野本さん)
さらに転職し、大手食品メーカーの役員を務めましたが、生産者と消費者をつなぐ仕事をしたいと14年に独立。現在に至るのです。

地産地消が成り立たない過疎地の第一次産業事業者は、こだわってつくった野菜、新鮮な魚を、高く買ってくれる市場を見つけなければ、生き残れません。
「大都市への人口集中のなか、巨大市場を担っているのは地方の水産業です。それなのに、彼らが儲からないのはおかしい。価値に見合う収益を得るには、新しいモデルをつくらないといけません」
と、野本さんは強調します。
「超速鮮魚」の鮮度を武器にすることで、町の小さな魚屋さんが、大手スーパーと闘える可能性も出てきます。

もっとも、第一次産業事業者の所得が向上したとしても、すぐに後継者が増えて漁業や農業が盛り上がるわけではありません。求められるのは、長く安定して、持続的に地方が栄える仕組みです。
CSN地方創生ネットワークは、それを成功させられるか。
挑戦は、始まったばかりです。

 

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