一昨日の「パナソニックの植物工場――植物工場を手掛ける必然性」の続編です。
パナソニックが植物工場のコンセプトとして掲げるのは、「マウスクリック栽培」です。
「マウスクリック栽培で、あなたも初日から最高品質の野菜を栽培可能です」
と、パナソニックAVCネットワークス社アグリ事業推進室の松葉正樹さんは胸を張りました。
※展示用システムの説明をするAVCネットワークス社アグリ事業推進室の松葉正樹さん
「マウスクリック栽培」とは、何を意味するのか。
従来、野菜づくりといえば、人の経験やノウハウに依存する部分が大きかった。しかし、パナソニックの植物工場では、人の経験や知識、ノウハウなどは問われません。
照明や温湿度、CO2濃度、水や養液の管理をすべて自動化。さらに、生産管理や菌数管理など安定生産のノウハウも提供します。農業の「工業化」ですよね。
実際、パナソニックの植物工場を手掛けているメンバーに、農学部出身者は一人もいないといいます。電気技術者やメカニカルエンジニアばかりなんですね。
今後、植物工場は、どうなっていくのでしょうか。
一つは、栽培できる野菜の種類が増えます。現状は、レタス類に加え、ベビーリーフ類、香草類など、短時間で生育する葉物野菜に限られますが、今後、根菜類を育てる技術を開発予定とか。
効率化も進みます。3年前は100グラムのフリルレタスをつくるのに46日から47日を要していた。現在は35日を切っており、1年後には30日を切るといいます。
さらに、現在はまだ、生産に人の手が必要ですが、今後、完全自動化を視野に入れて自動化技術を開発中です。効率化は、単価の低下、すなわち価格競争力、ひいては植物工場の普及につながります。
それから、高付加価値野菜です。すなわち、甘味、苦み、塩味のある野菜や、栄養価の高い野菜などを、生育環境や光、養液のコントロールなどによって実現します。
実際、低カリウムレタスのほか、糖度8という甘いレタスの試作などに成功している。栄養価や、野菜の葉の硬さ、厚みなどをコントロールできるので、顧客ごとにカスタマイズした野菜を出荷する未来がくるというんですね。
工場運営の効率化や高付加価値野菜の生産によって、植物工場は、ようやくビジネスモデルが確立されつつあります。
パナソニックの植物工場の事業は、再来年には黒字化を計画しています。国内では、横浜市や北九州、四国などに10か所以上の実績があるほか、大型案件も含む複数の案件が進行中です。
「将来はアグリ事業を、パナソニックを支える柱に育てたい」
と松葉さんは期待を込めました。
近年、植物工場は、製薬会社が医薬品に使用する遺伝子組み換え植物の栽培に利用するなど、食品以外の分野からも注目を集めていますからね。
パナソニックは、シンガポールではレストラン「大戸屋」に野菜工場の野菜を供給するなど、野菜そのものの販売が好調ですが、国内では野菜そのものではなく、プラントビジネスに注力します。ただし、将来的には、高付加価値の野菜にパナソニックのロゴをつけて販売する計画もあります。
植物工場の未来は、ようやく拓けてきた印象ですね。