「お前、アメリカで墓買えよ」
という言葉とともに、米国に送り込まれたホンダマンの話を聞いたことがあります。
1970年代のことで、その言葉の送り主は、後にホンダ社長を務める久米是志さんでした。
「墓買えよ」というのは、わかりやすくいえば、「現地に骨を埋める“覚悟”を持って仕事をしなさい」となります。つまり「責任をもって仕事をしろ」ということです。「墓を買う」つもりと、「3、4年で帰国する」つもりとでは、仕事への身の入れ方が違いますよね。
さて、今日付の日本経済新聞の「私見卓見」欄に、前川製作所顧問の前川正雄氏が「日本企業、駐在に任期設けるな」という記事を寄稿していました。
多くの日本企業は3~4年という任期で駐在員を派遣するなか、前川製作所は、「『いつ帰ってくるかは自分で決めろ』といって駐在員を送り出して」いるそうです。結果的に、20年以上メキシコに駐在した社員もいるとか。任期があると、社員は存分に働けない、というんですね。
一昨年、YKK会長CEOの吉田忠裕さんにお会いする機会があったのですが、YKKは、海外駐在員の滞在期間が長い。実際、イタリアの現地法人に38年務めた人や、韓国やイタリア、シンガポールで計36年務めた人がいるとして、「うちの場合は、20年を超えて、やっと少し長くなったかな、という感じ」と話していました。
これには、ファスナー世界シェア1位の理由の一端を、見せつけられた気がしましたね。
前川製作所に通じるものがあると思います。
2011年、当時ホンダ社長だった伊東孝紳さんにインタビューした際、こう語りました。
「海外駐在から3年や4年で帰国すると、現地でやっていることが、切れてしまう。現在の駐在員は3、4年で帰国するようになっているが、帰してはいけない人もいるんです」
根性論を振りかざすつもりはありませんが、先人の現地化の努力や地道な営業が、現在の海外における日本企業の地位をつくっているのは確かです。
定期異動にこだわっていてはダメです。3、4年のローテーションでは大きな仕事はできません。
グローバル化が進み、通信インフラが発達するなかで、ビジネスが時間や場所によって制限されることは、減少しているといわれます。しかし、そうはいっても、駐在員が現地に入り込み、「墓を買う」覚悟で取り組まなければ成し遂げられない仕事は、いつの時代もあるのではないでしょうかね。