またまた豊田章男さんの“サプライズ人事”です。豊田さんは、トヨタ本体とグループ会社の間で、役員の入れ替えをするなど、これまでにない大胆な人事を行ってきました。今回は、それを上回る思い切った人事といっていいでしょう。
トヨタ自動車は6日、取締役専務役員の早川茂さんを4月1日付で副会長に昇格させる方針を固めました。トヨタの副会長は、社長や副社長の経験者が就くのが一般的で、専務からの昇格は極めて異例の人事といえます。
「大変、身の引き締まる思い。経験を生かして精一杯務めたい」
と、早川茂さんは都内で開かれた決算会見の席上、コメントしました。
また、同日、早川さんが日本経団連副会長に内定したことも発表されました。13年に副会長に就任した内山田竹志さんが2期4年の任期を迎えることを受けたものです。
早川さんは、1977年にトヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)に入社し、主に国内外で広報渉外畑を歩んできました。現在は、トヨタが力を入れる2020年の東京五輪に関連した部署の統括も担っています。
トヨタはなぜ、今回、異例の人事に踏み切ったのでしょうか。
これまで内山田氏の後任として、トヨタ社長の豊田章男氏が副会長になり、18年に経団連会長に就任するというシナリオが描かれていました。そこには、2020年の東京五輪を迎えるにあたって、経団連のトップはトヨタがふさわしいという財界の思惑があったんですね。
ところが、豊田章男さんは、経団連に出るにはまだ早すぎると固辞した。いま自動車産業は、激変していますからね。次世代環境対応車、自動運転など大転換期にあります。また、トランプ大統領の誕生によって、国際環境も劇的に変わりました。
昨日の会見では、豊田章男さんの次のような談話が発表されました。
「日本経団連の榊原会長から後任副会長の要請をいただきました。本来は、社長の私がお引き受けすべきですが、二足のわらじを履くのは困難と判断し、私の考え方を理解している早川氏に大役を任せました」
つまり、多忙を極める豊田章男さんに代わって、章男さんの信頼が厚く、“分身”ともいうべき早川さんが経団連に送り込まれたんですね。
経団連といえば、日本を代表する大企業と業界団体で構成され、かつては、「財界の総本山」といわれてきましたが、近年は、日本の政治経済の構造の様変わりを受けて、新たな役割が問われるようになっています。加えて、役員の高齢化も問題視されています。
その意味で、トヨタで国内外の広報渉外を担い、内外に広いネットワークを有する早川さんには、これまでのような財界重鎮とは違った、まったく新しい経団連副会長像を期待できるかもしれませんね。
早川さんは現在、63歳ですから、経団連役員の若返りを図れます。
豊田さんが東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の副会長職にあったとき、忙しい章男さんの“名代”として出席していたのは、早川さんです。財界活動は経験済みです。
じつは、2月3日夜に行われた安倍晋三首相と豊田章男さんの会談にも、早川さんは同席しています。豊田章男さんが、早川さんに信頼を置いていることがわかりますね。
「私の考えを理解している早川氏に大役を任せた」という豊田さんの言葉からもわかるように、これは、豊田章男さんが練りに練った末の“サプライズ人事”といえるのではないでしょうか。
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