寂しい話ですが、百貨店が次々と閉店していますね。背景には、消費不況や人口減があるのは確かです。が、原因はそれだけではなさそうです。
三越伊勢丹ホールディングスは20日、三越千葉店と三越多摩センター店を閉店しました。業績が振るわない地方店、郊外店を整理し、東京都心の旗艦店に経営資源を集中するためです。
セブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武は2016年9月末、そごう柏店と西武旭川店を閉店、2017年2月、西武筑波店と西武八尾店を閉店しました。
これまでは、都心の旗艦店の稼ぎで地方店舗や郊外店の赤字をカバーしてきましたが、そのビジネスモデルがむずかしくなっているんですね。それほど、百貨店は追い詰められています。
背景には何があるのでしょうか。百貨店の閉店にもっとも大きな影響をおよぼしているのは、ネット通販の台頭です。
働く女性は、休日に百貨店に足を運ぶ時間がない。勢い、自宅にいながらにして、ネット通販を利用することになる。ネット通販なら品ぞろえも豊富で、しかも、安く買うことができる。
そう考えると、百貨店とは名ばかりで、“百貨”といいながら、いまの人たちにとって、百貨店にはほしいものが何もないということになります。極端な話、百貨店は時代に取り残された存在といわざるを得ませんよね。
同じ大型商業施設ならば、百貨店よりもショッピングモールの方が、いまの人たちにとっては魅力があります。
なぜなら、モールでは、モノ消費ではなく、コト消費を楽しむことができるからです。リラクゼーションスポットや美容院、ジムやフォトスタジオ、フードコートなど、モールにはコト消費を楽しめる場所がたくさんありますからね。
しかしながら、地方の顔として親しまれてきた百貨店がなくなるのは、地元の人にとって寂しいことです。生き残りの道はないのでしょうか。
一つのやり方として、ネット販売への対抗策をつくることが考えられます。
というのは、若い人であれば、ネットで買い物を楽しめますが、お年寄りがインターネットで買い物をするのはハードルが高いからです。しかも、地方には、買い物に出歩くのに苦労している“買い物弱者”といわれる人たちがたくさんいます。
そうした人たちをターゲットに移動スーパーを考案したのが、徳島県徳島市の「株式会社とくし丸」なんですね。
「とくし丸」は現在、全国38の都道府県で約200台の冷蔵庫付き軽トラックで移動スーパーを展開しています。地域の店舗型スーパーと提携し、販売ノウハウと「とくし丸」ブランドの使用権を供与、提携スーパーは、販売パートナーと呼ばれる地域の販売員と契約し、商品を提供して販売手数料を支払う。そして、販売パートナーは自ら車両を購入し、店舗型スーパーの販売代行を行う仕組みです。
販売パートナーは朝、提携スーパーから肉や魚、野菜などの生鮮食品のほか総菜や日用品など約400品目、1200から1500点の商品を軽トラックに積み込み、お客さんの玄関先に出向いて対面販売をするんですね。「とくし丸」で販売する商品は、一商品あたり10円を上乗せして販売します。
百貨店やスーパーなど、消費者に足を運んでもらうビジネスモデルは成長が見出しにくくなっていますが、「とくし丸」は、自らお客さんのもとに商品を届けにいくモデルです。これならば、お年寄りや子供がいる家庭でも利用できます。
「とくし丸」から学ぶべきは、お客さんが足を運んでくれないなら、店側からお客さんの元に出向いていることです。このくらい大胆な方向転換が百貨店にも必要ではないでしょうか。
「とくし丸」はほんの一例ですが、流通業はまだまだアイデア次第で生き延びることができるのではないか。
外国人旅行者による“爆買い”ブームが収束したいま、百貨店は、消費者をつなぎとめる「次の手」をどうするかが喫緊の課題となっています。
求められるのは、それぞれの百貨店がもっと際立った特徴をアピールすることではないでしょうか。
例えば、新宿の京王百貨店はシニアに即した売り場づくりで、ほかにはない特徴を打ち出しています。
また、鹿児島市の老舗百貨店の山形屋は、地方百貨店の先駆け的存在で、現在は周辺の大型商業施設に押されつつも、地方百貨店としてはトップクラスの収益力があります。
山形屋は、何よりも地元の人たちに愛され、地元の誇りとなっているのが強みです。また、シースルーの展望エレベーターは、上昇すると桜島の全景を見ることができるとあって、観光客の人気スポットになっています。
地方都市では、百貨店周辺のにぎわいが地域の活性化をもたらします。その意味でも、地方の百貨店の生き残りに知恵をしぼりたいところですね。