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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

“2連敗”のトヨタは大丈夫なのか

トヨタは、壁にぶつかっているのではないでしょうか。10日の決算会見にのぞんだ豊田章男さんには、笑顔がありませんでしたね。“改革”は、必ずしも思うような成果を上げていないように思われます。

トヨタの2017年3月期の連結決算は、売上高27兆5971億円と前の年度より2.8%減少し、営業利益も1兆9943億円と30.1%減少しました。

減収減益は、東日本大震災で大規模な操業停止があった2012年3月期以来、5年ぶりです。

「今回の決算は、為替の追い風も向かい風もない中で、まさに現在の等身大の実力が素直にあらわれたものだと感じています」と、社長の豊田章男さんは、決算発表の記者会見の席上、厳しい自己認識を語りました。

そして、2018年3月期の業績も、売上高は前の年度より0.4%少ない27兆5000億円、営業利益は19.8%少ない1兆6000億円にとどまり、2年連続の減収減益となる見通しなんですね。

2連敗が見込まれています。トヨタは、いまや曲がり角を迎えているといえます。

確かに、17年3月期は、為替変動による影響が9400億円にのぼります。ただ、為替の影響は“一過性”ですよね。

章男さんは、トヨタの抱える問題について、為替のほか、もう一点、“構造的問題”を次のように指摘しました。「トヨタが1000万台を超え、大きくなり過ぎたことがいちばんの問題です」

その“構造的問題”こそ、これまで本欄で何度も触れてきたように、“1000万台の壁”です。

自動車業界は、販売台数が1000万台に近づくと、必ず躓くんですね。GMは08年に経営破綻、フォルクス・ワーゲンは15年の排ガス不正の発覚により、それぞれ“1000万台の壁”に躓きました。トヨタも09年、品質問題の直撃を受けましたよね。

つまり、ビッグ3は、ズバリ、1000万台体制を維持・突破するO&M(オペレーション&マネジメント)を開発していない。

“1000万台の壁”を乗りこえるために、トヨタは16年4月、カンパニー制を導入しました。「製品企画」「車両系生産技術・製造」など“機能軸”で分けていた組織を、「小型車」「乗用車」「商用車」「高級車(レクサス)」の4つの“製品軸”に分け、それぞれを社内カンパニーとして独立組織にしました。

カンパニー制の狙いは、各カンパニーの業績をハッキリとさせ、経営のスピードアップを図ることです。

「カンパニー制に取り組み、1000万台の課題を明確にしました。しかし、何分にもこれまで80年近くの間、機能分業してきた会社です。昨年の4月に新しい器の形を変えても、なかなか結果が出ない」と、豊田章男さんは語りました。

“1000万台の壁”に加えて、トヨタの前にはもう一つ困難な“壁”が立ちはだかっています。自動運転、電動化、コネクティッドカー、シェアリングサービスなど、自動車業界に押し寄せる巨大なパラダイムシフトです。

めまぐるしい環境変化を受けて、トヨタといえども、油断すれば、あっという間に技術開発競争においていかれます。

また、トヨタは「もっといいクルマづくり」を目ざして、新しい設計思想「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」に取り組み、コスト削減といいクルマづくりに挑戦しています。

しかし、「TNGA」はまだ始まったばかりで、成果が出るのに少し時間がかかります。いまのところ、「TNGA」を導入したのは、4代目「プリウス」と「C‐HR」の2台に過ぎません。

私は、これらのすべての取り組みは、ほかでもない豊田章男さんの強い危機感のあらわれだと思います。ところが、豊田章男さんの危機感は、必ずしも正しく社内に伝わっていないのではないか。いや、社員は正しく受け止めていないのではないか。

ビジネスは結果がすべてです。ところが、“改革”は結果がともなっていない。まあ、“改革”は始まったばかりでやむを得ない面もありますがね。

そんなわけで、今日の決算会見では、明るい材料は一つもなかった。じつは、豊田章男さん自身、いまひとつ突破口を見いだしかねているようにも思われますが、どうでしょうか。とにかく、“1000万台の壁”は猛烈に厚いんですね。

「お客さまの笑顔のために」が口癖の章男さんですが、まずはトヨタを率いる豊田章男さん自身に笑顔がなければいけない。今日の章男さんには、まったくといっていいほど、笑顔がありませんでしたからね。

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