日産自動車は6日、全面改良した電気自動車(EV)「リーフ」を初公開しました。「航続距離」と「充電」を改善しつつ、「価格」を据え置いたのは、なぜか。そこには、ボリュームゾーンを取り込み、一気にEVを普及させる狙いがあります。
※日産新型「リーフ」
「初代リーフは、時代の先駆者としての役割をもっていました。新型リーフは、今後の日産のコアとなる実力をもった車です」と、千葉県「幕張メッセ」で開かれた発表会の冒頭、日産社長の西川広人氏は語りました。
まずは、「航続距離」と「充電」です。新型「リーフ」には、新開発の40kWhリチウムイオンバッテリーが搭載され、1回の充電で走れる航続距離は、従来に比べて1.4倍の400kmに伸びたんですね。
「新型リーフは、航続距離への不安は払しょくされました。日本の平均的なドライバーであれば、充電は週にたったの1回で済みます」というのは、日産専務で日本事業担当の星野朝子氏のコメントです。
ただし、「充電」には課題が残されています。「新型リーフ」は急速充電器を使った場合、40分で電池容量の80%まで充電できますが、40分はまだ長いですからね。
ちなみに、全国の充電スポットは、2017年3月期末に2万8260基。2年前に比べて2倍増えています。
加えて、新型「リーフ」には、高速道路の単一車線で、アクセル、ブレーキ、ステアリングを自動制御する「プロパイロット」、駐車開始から駐車完了までを自動で制御する「プロパイロット・パーキング」、アクセルペダルの操作だけで発進、加速、減速、停止を行う「e-Pedal」といった超先進技術が搭載されています。
しかも、これだけの機能が搭載されているにもかかわらず、「価格」は315万360円からと、「初代リーフ」と同等に抑えたんですね。
いってみれば、「新型リーフ」は、「航続距離」「充電」の弱点を克服し、しかも、「価格」を据え置いた。その狙いは、どこにあるのか。
あらためて指摘するまでもなく、新しい商品は、イノベーターとかアーリーアダプターといわれる、新しもの好きな人たちに支持されますよね。
いってみれば、2010年に発売された「初代リーフ」は、アーリーアダプター、すなわち環境意識の高い“特別な人”が乗る車でした。実際、「初代リーフ」の累計販売台数は28万台です。
それでは市場は大きくならない。いわゆるボリュームゾーン、すなわち“普通の人”に購入してもらわなければ、EVの本格的な普及は望むべくもない。
ところが、一般的に、“普通の人”は、新しい商品の購入に慎重です。周囲の人たちが購入するのを見て、ようやく購入を決める人も少なくありません。
どうすれば、“普通の人”にEVを買ってもらえるか。それには、「航続距離」を伸ばし、「充電」時間を短くするというように、EVが抱える問題を解決し、しかも、「価格」を手の届くものにする必要があった。
「新型リーフ」は、それをほぼ実現した。そのうえで、3つの先進技術を搭載し、EVを使い勝手のいい車にした。つまり、EVを環境意識の高い“特別な人”が乗る車から、“普通の人”が安心して乗れる車にした。米テスラのような単なるEVではないというわけです。
発表会の冒頭、「新型リーフは、日産のコアになる商品だ」と、社長の西川氏が断定した理由はここにあるといえます。
※日産社長兼CEOの西川廣人さん
「新型リーフは、EVではありません」と、副社長のダニエレ・スキラッチ氏も、「ワールドプレミアイベント」終了後のラウンドテーブルの冒頭、発言しました。
スキラッチ氏は、「新型リーフ」の“売り”は、EVそのものの先進性だけではなく、超先進技術にあるといいたかったんですね。つまり、EVだから選ぶのではなく、先進技術搭載で安心して乗れるようになったから選ぶ車に仕上げた。
「妻が運転しても、『プロパイロット・パーキング』があれば、何も心配することはありません。リーフは、日常生活に根付いた、使い勝手のいい車になったんですね」と、スキラッチ氏は語りました。
一般社団法人日本損害保険協会によると、自動車事故の約3割は駐車場で発生していると聞きます。意外な多さにびっくりしてしまいますが、「プロパイロット・パーキング」があれば、駐車に手間取ることもなくなりそうです。
「初代に比べて、間違いなく2倍は買ってもらえるだろう。日本は3倍は売れるのではないか」と、西川広人氏は販売台数の目標についてコメントしました。
北米や中国をはじめとする環境規制の強化で、EVは世界的な潮流となりつつあります。「新型リーフ」は、EVの本格普及のカギを握ることになるのか。日産のEV戦略は、いよいよここからが本番といえそうですね。