ホンダの八郷社長が痛みを伴う決断を下しました。背景には、電気自動車(EV)シフトに対する強い危機感があるんですね。
※ホンダの八郷隆弘社長
ホンダは4日、東京都内で記者会見を開き、国内の四輪車の生産体制を再編することを発表しました。
2021年度をメドに、1964年に稼働した狭山工場の車両生産を13年にキックオフした寄居工場に集約し、あわせて、子会社で商用車などをつくる八千代工業の四日市工場を完全子会社化する計画で、国内生産を寄居、鈴鹿、四日市の3拠点に集約する方針です。
狭山工場の従業員4600人は寄居工場に配置転換され、雇用は維持されますが、地元に与える影響は小さくないでしょう。
では、ホンダはなぜ、国内の生産体制の再編に踏み切ったのか。そこには、ホンダの国内工場の稼働率が8割未満にとどまり、設備に余剰を抱えているという厳しい内情があるんですね。大転換期の生き残りには、国内の過剰な生産能力の解消が必須だったということです。
狭山工場での生産終了により、国内の生産能力は約2割削減され、現在の年間106万台から81万台になります。
「国内販売が想定したほど伸びず、たくさんの輸出をすることもむずかしい状況にあります」と、ホンダ社長の八郷隆弘氏は、記者会見の席上、述べました。
ただし、再編の理由は、それだけではないんですね。
「自動車産業は、過去にはない大転換期を迎えています。開発現場だけでなく、生産現場も大きく進化させなければいけません」と、八郷氏は強調しました。
つまり、国内の生産体制の再編は、EVなど次世代車の開発、生産を強化するための布石といっていい。
というのは、ホンダは30年までに世界販売の3分の2を電動車にする目標を掲げています。目標達成には、電動化に対応する開発と生産の両方を鍛え上げる必要があるんですね。
牽引役となるのが、寄居工場です。
「EVの生産技術の構築については、まだまだこれからです。どううまくつくっていくか、モジュラー戦略も含めてこれから検討していきますが、その実証を寄居で行っていきます」というのは、八郷氏のコメントです。
寄居工場は、最新の生産技術が完備した最先端工場です。溶接工程や組み立て工程には、ロボットを駆使した自動化技術が取り入れられています。
ホンダは、寄居工場に電動車の効率生産に向けた実証ラインを新設し、世界の各拠点から集められたエンジニアと一緒になって、新車種の生産技術などを共同開発する計画です。
複数車種で部品を共通化し、設計や生産の考え方を標準化し、そのノウハウを、海外の生産拠点に水平展開していきます。
「電動化の時代は短期間でやってきます。それを乗り切るためには、原点の部分をしっかり理解してもらい、協力してやっていく必要があります」と、専務執行役員の山根庸史氏は述べました。
つまり、国内の生産体制の再編と同時に、国内の製造現場を大きく進化させ、電動化市場の競争を勝ち抜こうという狙いです。
結果的に見れば、想定以上に早い電動化の波が、狭山工場の“閉鎖”という苦渋の決断を促したことになりますが、ここで痛みを伴う大決断を下したことが、ホンダが大転換期を乗り切るための大きな一歩になるのは確かだといえるでしょうね。