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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

日産の西川社長はなぜ「着実な成長」を強調したのか

高い目標を設定すれば、企業は成長できるのか。日産の無資格検査問題は、企業の成長のあり方に問題を提起しているといえますね。


※日産社長の西川広人氏

日産自動車は8日、2018年3月期連結決算の営業利益の見通しを400億円下方修正し、6450億円に引き下げました。

完成車を無資格の従業員が検査していた問題をめぐって、リコール費用がかかることなどが原因ですね。

社長の西川広人氏は、決算会見の冒頭、「信頼を揺るがしてしまったことを深くお詫び申し上げます」と陳謝しました。また、原因究明や再発防止策を盛り込んだ報告書を、来週末までに国土交通省に提出する方針を明らかにしました。

同時に発表された、2022年に向けた「中期経営計画」では、連結売上高を12兆8000億円から16兆5000億円に引き上げるとともに、持続可能な営業利益率として8%という数字が掲げられました。

今日の記者会見を聞いて、印象に残ったのは、西川氏が「着実な成長」という言葉を繰り返し語っていたことです。約束した数値目標を何としてでも達成する、コミットミント経営を大切にしてきた日産から、「着実な成長」という言葉が何度も出てきたことに、“時代の変化”を感じましたね。

例えば、短期的利益の追求が現場のモラル低下や米国への収益偏重につながっていないかという質問に対して、西川氏は次のように答えました。
「数字を掲げてストレッチするのではなく、着実に計画を進めて実行していきます」

振り返ってみれば、企業はこれまで、現状よりも高いレベルの目標を掲げ、それにチャレンジさせることによって、従業員の最大の力を引き出そうとしてきました。

目標と現実の間に、あえて大きなギャップをつくることで、新しい発想や革新的な方法などを生み出してきたんですね。

経済の成長期には、それは理にかなっているでしょう。経営破たんの危機にあった日産をV字回復で再建した、カルロス・ゴーン氏の時代のように、数値を掲げて突っ走るコミットメント経営です。

ところが、時代は変わりました。かつては、目標と現実との間にギャップがあっても、パイが大きくなり、成長が背中を押してくれた。しかし、パイが大きくなることを期待できない現在、高い目標は、単に「無茶な目標」になりかねません。

西川氏は、17年3月期までの中期経営計画「日産パワー88」で未達となった世界シェア8%について、「目標として掲げることはしませんが、健全なポジションとして、8%が維持できる状態はもつべきと考えています」と述べました。

かりにも、日産がいま、現実とかけはなれた目標を掲げれば、組織はさらなる疲弊を招きます。これは、無資格検査問題からの回復を目指す、いまの日産としては、ぜったいに避けなければいけません。

「これは、数字を掲げて実行を求める経営からの転換に見えるかもしれませんが」としたうえで、西川氏は次のように語りました。

「カルロス・ゴーンCEO時代も数字は示してきましたが、実際には結果としての数字ではなく、さまざまなチャレンジなどの活動にポイントを置いてきました。今回の中期経営計画では、考え方を変えるわけではありませんが、アクションとかドライバーにフォーカスしたいと考えています」

思い出されるのは、パナソニック社長の津賀一宏氏が、16年3月、「売上高10兆円」の旗を降ろしたことです。トップが数字を掲げて組織を引っ張ることは、リスクを伴う。数字の目標は、考える以上にむずかしいということではないでしょうか。

いまの日産にとって大切なのは、高い目標を掲げて大きく飛躍するよりも、「着実な成長」を積み上げていくことですよね。つまり、持続的な成長ですよ。

「ある一定の利益は確保しなければなりませんが、利益だけを追求することはありません」
と、西川氏はコメントしました。

西川氏が無資格検査問題を乗りこえ、日産を「着実な成長」路線に乗せるには、「着実な目標」のもとに確実に成果を積み上げ、持続的成長路線を定着させることにつきるのではないでしょうか。

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