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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

トヨタが“車会社”ではなくなる日

自動車メーカーがかつてない変化に直面しています。電動化、自動運転、ライドシェアをめぐる技術変化によって、車をつくって売るビジネスモデルは成り立たなくなるかもしれないといわれているからなんですね。果たして、自動車メーカーはこの変化に対応できるのか。残された時間は多くはありません。

※豊田章男さん(12月13日撮影)

自動車メーカーが危機感を持つのは、「マース(モビリティ・アズ・ア・サービス)」といわれる、自由な移動サービスがいよいよ現実のものとなり、車が「所有」から「利用」へと大きく変わろうとしているからなんですね。

トヨタ自動車社長の豊田章男氏が1月9日、米ラスベガスで開幕した世界最大の家電見本市「CES」で、初めてのプレゼンテーションを行ったのは、自動車メーカーの将来に対する危機感のあらわれにほかなりません。

「私は、トヨタを、車会社を超え、人々のさまざまな移動を助ける会社、モビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました」
豊田章男氏は、「CES」のプレゼンテーションでそのように語りました。

つまり、“車会社”から“モビリティ・カンパニー”への転換ですね。

その象徴といえるのが、モビリティサービス専用EV「イー・パレット・コンセプト」です。

「イー・パレット・コンセプト」は、4~7メートル前後の全長を想定した、低床・箱型、バリアフリーの空間を持つEVです。

電動化、コネクテッド、自動運転技術が搭載されています。

「イー・パレット」は、さまざまな仕様に変えることができます。朝夕は相乗りのライドシェアサービスとして使い、昼間の時間帯は物販車として走らせたり、宅配業者が配送に使うなど、複数の事業者による相互利用が可能です。20人ほどの人を運ぶこともできます。

「現在は、お店までいかなければいけませんが、将来は、『イー・パレット』により、お店があなたのもとまできてくれるのです」と、豊田章男氏はCESの会場で語りました。

世界一の自動車メーカーのトヨタが、“車会社”から“モビリティ・カンパニー”に生まれ変われるのか。トヨタは、本気で“モビリティ・カンパニー”への転身を考えているのか。

覚悟のあらわれが、これまで“自前主義”といわれてきたトヨタが、180度方向転換して、「オープン・イノベーション」の考え方に基づく二つの取り組みを発表したことなんですね。

その一つは、車両制御インターフェースの開示です。

「イー・パレット」には、エリア限定で完全自動運転ができる「レベル4」の技術が搭載される予定ですが、トヨタは「イー・パレット」の車両制御のインターフェイスを開示して、協業パートナーが自動運転技術を活用できるようにしています。

自動運転技術に関わる肝心要の技術のオープン化は、トヨタにとって大決断だったに違いありません。

もう一つは、協力パートナーとして、米インターネット小売りの巨人アマゾン・ドット・コムのほか、中国ライドシェア最大手の滴滴出行、米ピザ・ハット、米ウーバーテクノロジーとの提携を発表したことです。

とりわけ、異業種における最強の競争相手ともいえるアマゾンと手を組んだのは、「マース」に乗り遅れまいとするトヨタの危機感以外の何物でもないでしょう。

指摘するまでもなく、アマゾンは、家電、日用品、映像、音楽などあらゆるものの販売を手掛け、日々積み上がる膨大なデータ量を武器に、巨大プラットフォーマーとして君臨しています。16年度の売上高は、15兆円に達しています。

「私たちの競争相手は、もはや自動車会社だけでなく、グーグルやアップル、あるいはフェイスブックのような会社もライバルになってくると、考えています」と、豊田章男氏はCESのプレゼンテーションでコメントしています。

そのアマゾンを、トヨタは敵に回すのではなく、協力パートナーに迎え入れたんですね。

「私たちの持つモビリティサービスプラットフォームを、パートナー企業が新たなモビリティビジネスを行うための共通プラットフォームにしたいと考えています」と、豊田章男氏は述べています。

もはや、異業種との協力関係なくして、これからの自動車産業は成り立たなくなっているんですね。

アマゾンを協力パートナーに迎え入れた決意は、トヨタの“モビリティ・カンパニー”への大きな一歩といえそうです。

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