先月、「住宅宿泊事業法」、いわゆる「民泊新法」が施行されました。
施行時に、仲介サイトは、届け出のない「民泊」約4万件を削除するなど、混乱がありましたよね。施行から一か月時点で、届け出件数は5000件超といいますから、まだまだ少ないですよね。
「民泊新法」では、東京都大田区、大阪府の一部、北九州市などの「国家戦略特区」を除き、民泊の営業日数に180日の上限が設けられました。都市部の家賃の高い物件は、採算をとるのが難しく、届け出件数が伸びない一因とされています。しかし、政府の掲げる2020年に4000万人、30年に6000万人のインバウンド(訪日外国人)を呼び込むには、宿泊施設が足りないのは明白です。
さて、同じ6月に、パナソニックは「民泊」に参入したという報道がありました。なぜ、パナソニックが「民泊」なのかと、驚いた人も多いのではないでしょうか。
具体的に、パナソニックは何をするのか。
パナソニックの社内分社の一つ、エコソリューションズ社傘下に、注文住宅、集合住宅、マンション、リフォームなどを手掛けるパナソニックホームズがあります。昨年10月にパナソニックがパナホームを完全子会社化し、この4月から社名をパナソニックホームズとしているんですね。
パナソニックホームズは、50年以上にわたって、土地活用の事業を手掛けています。土地所有者に対し、賃貸住宅や店舗併用住宅などを提案し、建設を請け負います。また、高齢者住宅や保育施設など、介護・医療・福祉施設などを建築し、借り上げたうえで、運営を外部委託し、土地所有者に賃料を支払うスキームもあります。
これを、「民泊」に応用するわけです。「民泊」の施設をパナソニックホームズが建設し、所有者から借り上げたうえで、運営は、百戦錬磨、スクイーズの二社に委託。パナソニックホームズは、宿泊費の約1割を受け取ります。18年度中に、東京、大阪で10棟50億円の受注を目標としています。
さて、採算はどうなのか。じつは、パナソニックホームズが手掛ける「民泊」には、営業日数180日の上限はありません。
「民泊新法」と同時に施行された「改正旅館業法」は、従来、「旅館営業」と「ホテル営業」に分かれていた営業種別を、「旅館・ホテル営業」に統合したほか、1室から営業が可能、フロントを設ける必要がない、また、ITによる本人確認が可能など、規制が緩和されました。
パナソニックは、これに目をつけたんですね。つまり、「民泊新法」ではなく、「改正旅館業法」に適合する宿泊施設で「民泊」に参入するわけです。これなら、180日の上限はなく、簡易宿所ならフロントなしで営業できる。このほか、やはり営業日数の上限がない「国家戦略特区」における民泊も手掛ける計画です。
少子高齢化により戸建て住宅の着工件数は、今後、縮小が予想されます。一方、人口流入の続く都市部の多層階工業化住宅は、まだまだ需要がある。民泊用の施設も、その一つです。パナソニックホームズは、国内では最高層の9階建てを実現する、重量鉄骨ラーメン構造の技術も持っているんですよね。
台東区三ノ輪に、今年4月、旅館業法の「ホテル」として営業を開始した、パナソニックホームズの施設があります。一見、賃貸住宅かマンションのようです。部屋は、25平米から40平米の1LDK18室。価格は変動しますが、一部屋一泊約2万円で、4人で泊まれば、一人当たり5000円の計算です。清潔、おしゃれで、民家に泊まる「民泊」のイメージとは、全く異なります。
民泊用の施設は、パナソニック製のキッチンやトイレなどの住宅設備に加え、テレビや洗濯機、調理家電、美容家電など、パナソニック製の家電を置いて、ショールームとしての機能を持たせることができます。日本で家電を購入したい外国人観光客は多いですから、一石二鳥ですよね。
民泊事業は、パナソニックの新たな収益源となるのか。需要は、間違いなくあるでしょう。住設や家電への波及効果と併せて、今後の展開が注目されます。