クルマの価格が高くなっているといわれます。ハイブリッド技術、衝突安全技術、自動運転技術など、さまざまな新技術が搭載されるようになったからです。車両価格の上昇は、クルマ離れにつながりかねない。トヨタは危機感を持っています。
※8月3日のトヨタの記者会見の様子
トヨタは、2015年12月発売の新型「プリウス」に「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を初適用して以降、「CH‐R」「カローラスポーツ」「カムリ」「クラウン」「レクサスLC」「レクサスLS」などに「TNGA」を適用してきました。
「TNGA」とは、クルマのサイズごとに車台を統一したり、部品や設計を共用化したりすることで、生産効率の向上やコスト削減、商品力アップを目指す、新しい設計手法なんですね。
冒頭、指摘したように、いま、自動車メーカーが抱える課題に車両価格の上昇があります。環境性能や安全性能など、クルマに求められる機能はますます増え、それを新車で実現しようとすると、車両価格がジリジリと上がってしまうんですね。
「いいクルマにはなったが、価格も高くなったのではというご指摘もある」と、3日、東京都内で開かれた記者会見で、トヨタ副社長でTNGA担当の吉田守孝氏は語りました。
車両価格の上昇は、クルマ離れを引き起こす要因になりかねません。
それでなくても、カーシェアリングの普及によって、クルマは低廉な料金で気軽に利用できるようになりつつあります。これ以上、車両価格が上昇すれば、クルマの〝所有〟から〝利用〟への流れはますます加速するでしょう。
トヨタは、そのことに強い危機感を持っているんですね。どうすれば、車両価格の上昇にストップをかけることができるか。
トヨタは「TNGA」を強化し、価格を含めて選ばれる車づくりに取り組む計画です。先行技術開発、愚直な原価低減、開発現場へのトヨタ生産方式の導入で、「TNGA」をさらに進化させる狙いです。
また、原価低減といえば、トヨタはこれまでも危機に見舞われるたびに、お家芸ともいえる原価低減を打ち出してきました。原価低減は開発現場にとどまりません。5年間で1兆円に増えた固定費についても原価低減で圧縮しようとしています。
専務役員の白柳正義氏は、事技系職場の原価低減を例にあげて、次のように説明しました。
「〝もったいない〟という意識を浸透させるために、全社をあげてペーパーレスを進めています。報告などではなるべく紙を使わないようにし、資料も一枚の紙にまとめるようにしています。そのおかげで、コピー機の使用が半分になりました」
「また、自分でやってみようということで、外の会社に任せていたイベントを自社の若い社員にやらせるようにしています。さらに、生産現場で行われているトヨタ生産方式を事技職場に導入したり、経理に生産調査部が入って無駄の洗い出しを行っています。決算業務は8%の効率化を達成しました」
トヨタがここへきて、車両価格の上昇に敏感になっているのは、米国発の貿易戦争と無関係ではないでしょう。米国が自動車に追加関税を発動すれば、コスト上昇につながりますが、関税で上昇したコストを単純に製品価格に転嫁するわけにはいきません。
「TNGA」による原価低減策は、まさしく追加関税の影響を最小限に抑えるための切り札なんですね。