2日、パナソニックは、「WEAR SPACE」のアジャイル開発を行うプロジェクト、「WEAR SPACEプロジェクト」を立ち上げたと発表しました。
「WEAR SPACE」とは、周囲の音を遮断するノイズキャンセリング機能のついたヘッドフォンと、水平視野を約90度に絞り込むパーティションを組み合わせたウェアラブル端末です。
※「WEAR SPACE」
これを装着すれば、どこでも、自分の世界に閉じこもることができる。「SPACE」を「着る」発想です。働き方改革が進み、フリーアドレスやコワーキングスペースなどが普及するなかで、集中すべきときには、自分の世界に引きこもりたいというニーズがあり、それに応える商品として開発されました。まったく新しいコンセプトの家電ですよね。
「WEAR SPACE」を身につけることで、心理的なパーソナル空間に入ることができ、周囲にも「集中したい」ことをアピールできる。「WEAR SPACE」プロジェクトは、10月2日から12月11日まで、CCCグループのクラウドファンディングサイト「グリーンファンディング」でクラウドファンディングを行っています。目標額は1500万円です。
「WEAR SPACEプロジェクト」は、パナソニックの社内カンパニーであるアプライアンス社の家電デザイン部門で先行開発を行う部隊、FUTURE LIFE FACTORY(FLF)と、後述するシフトール(Shiftall)の合同プロジェクトです。FLFが企画・デザインし、シフトールが設計、製造、販売を手掛けます。パナソニックブランドは用いず、FLFブランドで売り出すんですね。
「社内で提案して通らなければ終わりではなく、社外に出し、社外の評価を得て、もういちど社内に持ち帰って進めたいと思っています」
として、アプライアンス社デザインセンター新領域開発課の姜花瑛さんは、次のようにコメントしました。
「こうした活動や、私たちが開拓したスキームによって、パナソニックの既存事業に穴をあけ、何かしらの変化を生み出せればいいと考えています。最終的には、既存事業にとらわれないような新しい商品を、バンバン出せるような会社になっていきたいです」
※デザインセンター新領域開発課の姜さん(左)と、シフトール社長の岩佐さん
パナソニックブランドを冠し、従来のプロセスで新商品として発売しようとすれば、およそ2年はかかる。今回は、FLFブランドかつアジャイル開発を行うシフトールと組むことによって、来年の8月以降に、クラウドファンディングの出資者に商品を渡せる予定といいます。
シフトール社長の岩佐琢磨さんは、もともと03年から07年までパナソニック社員でした。08年に、IoT家電のアジャイル開発、生産などを手掛けるセレボを起業。セレボの一部を切り出して「シフトール」という会社にしたうえ、今春、パナソニックに売却。自らもパナソニックに戻ったんですね。シフトールの社員は27人。パナソニックグループの一社ですが、「独立独歩で好き勝手にやらせていただいている。パナソニックに緑色の血を注ぐ“輸血係”です」と、岩佐さんは語りました。
岩佐さんは、また、市場規模の質問に答えて、次のように語りました。
「正直わかりません。だからこそクラウドファンディングをやってみる。その先に、3000台のマーケットがあるのか、3万台なのか、あるいは30万台なのかは、『やってみんとわからん』と。『やってみんんとわからん』ことでも、一歩踏み出せるような体制になったとことが、今回の意義ある点だと思っています」
注目は、パナソニックが、従来の大量生産大量販売のビジネスモデルを脱し、新たなアジャイル開発型のプロジェクトにおいて、成功事例をつくれるかどうかです。
※後ろから見た「WEAR SPACE」
いま、パナソニックは、FLFのほかにも、アプライアンス社傘下のゲームチェンジャーカタパルト、シリコンバレーでアジャイル型開発に取り組むパナソニックβ、社外のイノベーターを支援する「SHIBUYA 100 BANCH」など、大量生産大量販売のモデルを脱し、イノベーションを起こし、新たなビジネスを創り出すための取り組みを、いくつも並列して行っています。これらの取り組みは、いずれもまだ始まったばかりで、まだこれといった成功事例が生まれていない。
「WEAR SPACE」は、クラウドファンディングで世に問う初めての商品です。成功すれば、パナソニックの新商品開発や新しい挑戦にとって一つの布石になるのは間違いない。「WEAR SPACE」は、パナソニックにサクセスストーリーをもたらすことができるでしょうか。今後のパナソニックの新しい家電の在り方を占う試金石でもあるでしょう。
今月20日、拙著『パナソニック、「イノベーション量産」企業に進化する!』(PHP研究所)を上梓します。
※amazon
パナソニックが挑む新規事業創出の取り組みについては、この本のなかでも多くとりあげました。ぜひ、ご一読ください。