「セル生産」といえば、コピー機やデジタルカメラやケータイの生産に活用されてきました。ところが、ホンダは自動車の生産に「セル生産」を取り入れた。これは、画期的なことです。いったい、どういうことでしょうか。
ホンダは、タイのプラチンブリ工場に、「セル生産方式」を組み込んだ、「ARC(アーク)ライン」を導入しました。この3月の新型「シビック」の生産立ち上げに合わせた導入です。同工場の年間生産能力は6万台です。
これまでの「ライン生産方式」は、コンベア上を流れる車体に作業者が単一工程で部品を組み付けていました。
「ARCライン」は、作業者が広い範囲の工程を受け持ち、複数部品の組み付けを行う、文字通りの「セル生産方式」です。生産ユニットをメインラインに組み込んで流動させています。
従来の「セル生産方式」は、作業台を屋台に見立てて“一人屋台生産方式”などといわれていましたが、あくまでも一か所に固定されていました。ところが、ホンダの「セル生産方式」は動くんですね。
1台の車体と1台分の部品を積載した搬送ユニット「ARCユニット」に4人の作業者が乗り込み、車体と一緒に移動しながら組み付け作業を行います。
必要な部品を棚まで歩いて選んで取りにいくといった、付帯作業を減らすことにより、作業効率を既存ラインと比較して10%向上できるというんですね。
これは、前代未聞の試みですね。聞いたことがありません。
この画期的なラインを開発したのは、ホンダエンジニアリングです。
とりわけ、注目したいのは、世界初の「ARCライン」をいきなり、タイの新工場に導入したことですよ。従来であれば、日本のマザー工場で生産技術を確立したあと、世界の工場に展開するところですよね。
世界初の生産技術を導入するからには、タイの工場にそれだけの実力がなければいけません。つまり、タイに限らず、ホンダの世界各地域の工場は、十分な実力をつけてきていると見ることができるでしょう。
加えて、「ARCライン」は、一人当たりの作業工程が増えるため、幅広い知識と技能を修得できるという利点があります。すなわち、「ARCライン」をタイの新工場に導入したのは、タイの従業員を日本同様の熟練技能者に育て上げたいと考えているからにほかなりません。
「ARCライン」には、もう一つ、大きな特徴があります。それは、生産変動への対応です。ユニット式のため、生産台数の変動や車種の追加にともなうレイアウトに柔軟に対応できるんですね。
また、「PLUTO(プルート)システム」により、タブレット端末で作業者に部品の組み付け順序や品質管理のポイントなどを画像と音声で指示するほか、「DiSC(ディスク)システム」により、作業者の手元に適切な部品を供給する作業を支援し、さまざまな車種が混在するラインでも、間違いのない部品供給が可能になります。
変動生産のためにいちいちラインのレイアウトを変更していては、投資もかさみ、時間もかかります。「ARCライン」は、ラインを動かすコンベアを長くしたり、短くしたりするなど、小さな工夫の積み重ねで変動生産に対応できます。そう、じつに、フレキシブルですよね。
世界ではいま、多品種少量生産へのモノづくり革命が起きています。ドイツでは、「IoT」化が進められ、顧客のニーズにぴったりの商品を素早く届ける取り組みが進行中ですよね。
製造業の要となるは、工場のあり方です。「セル生産」を取り入れた自動車の生産は、ホンダらしいユニークな挑戦といえます。果たして、世界に広がるでしょうか。興味津々の取り組みですね。