最後に、試飲です。テーブルには、ワイングラスを少し小ぶりにしたテイスティンググラスが6つ置かれていました。樽から出たばかりの原酒が5種類と「山崎」、それぞれ30ミリほど注がれています。
まずは、色の違いを目で確かめます。もっとも色が濃いのは、シェリー樽で熟成した原酒です。赤みがかった琥珀色です。もっとも色が薄いのは、ミズナラ樽で熟成した原酒です。明るい琥珀色です。
次に、テイスティングをしていきます。佐々木さんにいわれるままに、ホワイトオーク樽の原酒が注がれたテイスティンググラスを右手にもって、軽く揺らしたあと、鼻を通すような感じで香りを確かめます。ノージングです。ここで感じられる最初の香りをトップノートといいます。
「アルコール度数が50近くありますので、香りがわかりにくいかもしれません。度数を20くらいにすると香りがわかりやすい状態になるので、差し水を少し入れてみてください」という佐々木さんの指導のもと、グラスの下のラインの少し手前まで、ウイスキーと水が1対1になるように、差し水を入れます。
アルコール度が高いと、香りが閉じ込められてしまうのだそうです。少し水を足して、アルコール度数を下げると、香りが開くのだと佐々木さんはいいます。
「ちょっとグラスを揺らしてみてください。だいぶ、香りが開いてきましたね。リンゴとか洋ナシとか、フルーツの香りが隠れています。青リンゴのフレッシュな香りがして、甘味のバランスがいいですね」
口にするときは、舌の前から後ろに転がすようにするといいといいます。味の特徴が染みとおってくるような感じです。
さらに、舌の奥から喉に落とします。飲み終わったあとは、鼻から息を吐きます。そうすると、穀物系のビスケットのような甘味などが感じられるそうです。これをアフターテイストといいます。
次に、シェリー樽の原酒をテイスティングします。ベリー系の熟成感のある甘い香りが感じられます。ドライフルーツのような香りもしますね。
数ある原酒をテイスティングし、強い個性をもつ原酒を組み合わせて、持ち味を引き出し、新しい味と香りのハーモニーを生み出すのが、ブレンダーです。例えば、「山崎」なら「山崎」の品質にあう原酒を選びだし、混合比を調整するんですね。
「一つの蒸溜所のモルト原酒だけを混ぜ合わせたものを、シングルモルトといいます。山崎蒸溜所はモルト原酒しかつくっていないので、山崎蒸溜所でつくられたウイスキーは何種類のモルトを混ぜようとシングルモルトになります」
佐々木さんのコメントです。
日本のシングルモルトウイスキーは、ほとんどが地名がそのままウイスキーの名称になっていますよね。サントリーの「山崎」、「白州」だけでなく、ニッカウヰスキーの「余市」、「宮城挟」もそうです。
そういえば、最近、サントリーは愛知県知多半島にある知多蒸溜所で生まれた、グレーン原酒でつくった「知多」というウイスキーを出しました。
日本のウイスキーは、その土地とともにあるといっても過言ではないでしょうね。
思えば、山崎蒸溜所には、90年代前半から、何度も足を運びました。そのたびに、周囲の緑豊かな自然、背後に迫る天王山、静寂な竹林、古い家並みに心が安らいだものです。
このウイスキーは、どこで育まれたのか。その土地に思いを馳せ、その土地の文化を思うことも、ウイスキーの楽しみといえるのではないでしょうか。