昨日の日経新聞に「熟練工に新資格制度」という記事が載っていました。今日は、「日本版マイスター制度」について考えてみます。
記事によると、自民党は党内に「日本版マイスター制度に関する特命委員会」を設置。ドイツの職人制度「マイスター」を参考とした資格認定制度の設計を進め、政府が6月末にまとめる予定の新たな成長戦略に盛り込むように働きかけます。「日本版マイスター制度」の狙いは、製造業を支える熟練工の技能継承や処遇改善を図るというわけです。
記事にも書かれていることですが、職能に関する資格としては、「技能検定」があります。「技能検定」は、働く人々の技能を国として証明するための国家検定制度ですが、就労に必須の資格ではないことから、「取得しても地位向上につながらない」という意見が出ているんですね。
その点、新たな「日本版マイスター制度」では、資格取得者は町工場の数ミリ単位の技能といった、手工業の領域の「一級の職人」に限定されるほか、資格取得者がいることを公共事業への入札条件にすることも検討する方針とか。職人の地位向上を図るとともに、制度を実効力あるものにするための工夫ということでしょうね。
日本は、“職人の国”ですので、ドイツ人顔負けの「マイスター好き」ですわね。実際、優れた技術の継承や人材育成を図るために独自の「マイスター制度」を設けている自治体や企業は少なくありません。
例えば、国内最大級の規模を誇る大型油圧プレス機を使用し、東京スカイツリーのもっとも太い部分の鋼管抗を製造した富田製作所は、その道のスペシャリストを「マイスター」として認定しています。現在、「マイスター」をもつ職人はわずか3人で、いずれも15歳で就職して以来、60年近くを富田製作所で過ごした、超ベテランたちです。彼らは、背中にピンク色の刺繍で「MEISTER」と記された作業着を身に付けています。新人は、「マイスター」のもと、「徒弟制度」で仕事を教わります。
同社専務取締役の富田英雄さんは、次のように語ります。「うちの仕事は、よそで学べるものじゃない。あくまで経験工学の世界です。1万6000トンプレス機にしても、本当に使いこなせるようになるためには、一流の職人であっても、機械のクセを把握するまでに1~2年はかかる。そういう世界なんです」。
富田さんはマイスターのなんたるかについて、本質を語っていると思います。いま、ものづくりの世界では、製造工程のデジタル化や自動化を極限まで進める「インダストリー4.0」が注目を集めていますが、あらゆる仕事を数値化し、自動化できるかといえば、おそらくそんなことはないでしょう。きわめて高度な“匠の技”は、徒弟制に近いシステムで伝承するほかないと思います。
逆説的ではありますが、あらゆる仕事が自動化されつつある今日だからこそ、「マイスター」の存在が輝くといっていいのではないでしょうかね。その意味で、「日本版マイスター制度」は、すこぶる興味深く、かつ面白い試みだと思いますね。