トヨタの元常務役員のジュリー・ハンプさんは、不起訴になり、空席になっていたCCO(コミュニケーションチーフオフィサー)には、専務役員の早川茂さんがつきました。とりあえずこの件は、落ち着いたといえるでしょう。
今回の事件で感じたことを、改めて少し書いてみたいと思います。
以前にも少し書きましたが、トヨタの企業風土のなかで、多様性を育てることがいかにむずかしいかということです。
トヨタの社員は、非常に自負心が強い。それが、トヨタ社内の強い結束を生んでいるのですが、反面、外部のものを受け入れることに対して、きわめて慎重な風土があることは否めません。
しばしば指摘されるように、トヨタの社員は、どこを切っても「金太郎飴」だといわれます。また、それを肯定する企業風土があります。それが、トヨタの団結力の源になっています。外から入ってきた別の「飴」を、つまはじきにしがちなのです。
まあ、簡単に“よそ者”を受け売れないというのはトヨタに限らず、名古屋の一般的な風習といっていいでしょう。
ただし、誤解のないように断っておきますが、ひとたび懐に入れば、それは驚くほど歓待し、濃い親戚付き合いに発展します。トヨタもそうですね。
その点、ホンダは中途採用者が多い。彼らが活躍しやすい風土です。つまり、そのことは、少しも組織的にも、個人的にも、ハンディとはなっていない。その意味で、フランクな文化風土です。トヨタとは対照的ですね。
もう一点、指摘したいのは、次のようなことです。ハンプさんは、GMやペプシコを経て、12年にトヨタに入社しましたが、そもそも、なぜ、今回、トヨタはムリして女性役員を外部から登用したのか。
ずばり、生え抜きが育っていないからですよね。
JRはかつて、自動車業界と同じく、典型的な男性社会でした。JR東日本は、87年の民営化当時0・8%しか女性社員がいなかった。超男性社会でした。
女性を増やすために、採用はもとより、女性管理職の育成やサポートに、積極的に取り組んできました。それこそ、本社ビルに女性トイレを新設することから始まりました。
04年から、女性社員の活躍や、仕事と育児・家庭の両立支援などの意味を込めた「Fプログラム」を実施して、環境を体系的に整備したほか、09年からは、これを発展させた「ワーク・ライフ・プログラム」に取り組んできました。
例えば、現場でいえば、女性の車掌からはじまって、女性運転手、女性駅長の登用など、女性の活躍を、内外に積極的にアピールもしてきました。いまや民営化27年が経過して、何人かの女性部長が誕生しています。女性の執行役員もいます。生え抜きの女性の取締役が生まれるのも、時間の問題です。
国内事業が中心の鉄道会社と、グローバルに展開する自動車会社を、一概に比較はできませんが、ただ、トヨタが女性管理職の育成に積極的だという話は、あまり聞いた記憶がありません。
まあ、トヨタもそれなりに女性管理職育成に取り組んではいるのかもしれませんが、しかし、生え抜きの女性管理職が誕生するには、まだまだ、相当時間がかかるでしょう。
その間、女性のボードメンバーは、外部から登用するしかない。いまは、その過渡期です。今度の事件は、その過程で起きた不幸な出来事といえるわけですね。
トヨタは昨日、「『真のグローバル企業』をめざし、多様性を尊重し、『適材適所』の考え方に基づいた人材登用を進めていく」とコメントを発表しました。初っ端からつまずいてしまいましたが、しかし、今後も、“人材の多様化”の旗を揚げ続け、前進あるのみではないでしょうか。