Loading...

経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

ホンダジェット日本人第1号の真相

先週、ホンダの小型ジェット機「ホンダジェット」の日本人顧客第1号が、日本通信会長の三田聖二さんだと報道されましたよね。
三田さんは、日本人の予約が一人もないと知って、日本企業がつくったジェット機を日本人が一人も買わないのは問題だと考え、個人で予約したといいますが、じつは、いたんです。ホンダジェットを買いたいと思っていた人が……。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
※ホンダジェット

ですから、このニュースを見て、さぞや悔しがっているだろうと想像するんですが、その人こそは、2007年に亡くなった建築家の黒川紀章さんです。
ホンダジェットは、日本人の予約がなかったといいますが、じつは、日本人第1号は、黒川さんだったんですね。

ホンダの社長が、福井威夫さんだったころの話ですよ。
黒川さんから、何度も福井さんに「会いたい」というアプローチがあった。
福井さんは、「2018年のサッカーW杯サンクトペテルブルグ大会のアリーナを、黒川さんが設計していた。だから、プーチン大統領にいわれて、ロシア事業のことをいってくるんだと思ってたんだよ」と、振り返ります。

某日、黒川さん直々に、ホンダの役員室に電話があった。
「黒川紀章だけど。福井さんいるかな」
電話をとった秘書は、てっきり、福井さんと黒川さんが知り合いだと勘違いし、つないだのだといいます。福井さんは、びっくりです。
「ホンダジェット1号機を売ってほしい」
電話口で、黒川さんは20分ほども粘ったのだとか。

改めて、黒川さんは福井さんに面会することになります。
黒川「ホンダジェットの1号機を、私に売ってほしい」
福井「いやいや、すでに100人以上もお客さんが待っている。さすがに無理です」
黒川「私は『NSX』の1号車を持っているんです。本田宗一郎さんから買いました。だから、ホンダジェットの1号機が、どうしても欲しい」――。
めちゃくちゃな理由ですが、「1号」にこだわる黒川さんの熱意は、伝わってきます。

「小柄なんだけど、押しが強くてね」
というのは、福井さんの黒川評です。
粘る黒川さんに、福井さんは、いいました。
「わかりました。じゃあ、『日本人1号』ということで、どうですか」
「ああ、それでいいです」
話はまとまり、黒川さんは、デポジットも納めたといいます。

黒川さんは、「ホンダジェットをオーダーした」と、テレビ番組でも公言し、ホンダジェットに乗る日を楽しみにしていました。亡くなられたのは、じつに残念です。

今回、ホンダジェットの日本人顧客第1号が報道され、黒川さんは悔しがるよりむしろ、「やっと日本人が買ったか」と、安心しているかもしれませんね。

ページトップへ