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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

<ふるさと革命②>若者はなぜ神山町を目ざすのか

人口減少社会の日本、それも過疎化や高齢化が深刻な地方都市において、形勢逆転の切り札は、移住、定住者、すなわちU・Iターン者の呼び込みです。

移住者獲得は、人口増はもちろん、外部からの視点を得ることによって新たな成長の可能性にもつながります。

いま、地方自治体は、さまざまなインセンティブ制度を設け、移住・定住の誘致を競っているんですね。

では、移住者獲得のポイントはどこにあるか。
一つは、受け入れる側の体制ですよね。行政主導の移住政策が多いなか、住民主導で移住者の獲得に成功した例があります。最近、テレビ等でもとりあげられている、徳島県の神山町です。

JR高徳線徳島駅から国道438号線を南西方面に約40分。
神山町は、吉野川水系の清流、鮎喰川のほとりに広がる小さな町です。人口は1950年の2万1000人をピークに減り続け、16年9月現在5704人です。
数字上は、典型的な過疎の山村ですよね。
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※徳島県名西郡神山町

ところが、神山町には、過疎村にありがちな暗さ、時代の流れに取り残されたような印象はありません。町が、生き生きとしているんですね。

神山町の「ふるさと革命」のリーダーは、92年に設立された「神山町国際交流協会」を母体として04年に設立された、NPO法人グリーンバレー理事長の大南信也さんです。大学院修了後に地元神山町に戻り、住民主導の町づくりに取り組んでいます。

グリーンバレーは、
「『人』をコンテンツにしたクリエイティブなまちづくり」
「多様な人の知恵が融合する『せかいのかみやま』づくり」
「『創造的過疎』による持続可能な地域づくり」
の三つのビジョンを掲げ、アーティスト・イン・レジデンスや空き家再生、商店街再生、サテライトオフィスの誘致など多様な取り組みを進めています。

例えば、東京などに本拠を構えるIT系ベンチャー企業16社が、古民家を活用するなどして、サテライトオフィスを構えているんですね。これらの企業で働く若者たちが、神山町を活気づけているんですね。
サテライトオフィスの一つで働くある社員は、「自然が豊かで、いろんな人がマイペースで生きていて、ゆったりしていていいなぁと思います」と、満足気に話していました。
彼らにとって田舎は、決して「不便」でもなければ、「暮らしづらい」「退屈」な場所ではないんですね。

グリーンバレーの「『人』をコンテンツにした」町づくりという発想は、どこからきたのか。
大南さんは、1970年代後半に米スタンフォード大学の大学院に留学中、シリコンバレー誕生の話にピンときたと語っています。

ご存じの通り、シリコンバレーは、もとは農業地帯でした。優秀な学生が東海岸の大都市に流出してしまう状態を憂い、スタンフォード大学教授のフレデリック・ターマン氏が、米軍の予算を用い、HP(ヒューレット&パッカード)の創設者となるウィリアム・ヒューレットさんとデビッド・パッカードさんら優秀な学生にガレージで起業させたり、優秀な研究者を集めたりして一大軍需産業を築き上げたのが始まりです。

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※NPO法人グリーンバレー理事長の大南信也さん

「農地ばっかりの土地でも、クリエイティブな人間を集めさえすれば、必ず大きな事を成しえるということにあると思うた。これをもとに、神山町のような山間の土地でも、クリエイティブな人間が集まれば、何かが新しい物事が起こせるんではないかという仮説を立てたんです」
とは、大南さんは語ります。
「グリーンバレー」は、もちろん「シリコンバレー」をもじってつけました。

グリーンバレーは、民間の力によって移住者を獲得している珍しい例ですね。
「民間の立場で勝手連にやってきたことが大きい。行政の予算を使うと、効率や成果を求められますが、僕らは民間だから、肩肘張らずに長い時間をかけて取り組めます」
とは、大南さんのコメントです。

さらに、「フラット、オープン、フレキシブル」(大南)という通り、じつに柔軟に移住者の多様性を受け入れています。
「新しく入ってきた若い子に対して『こうあるべきだ』とはいいません。例えば、『こんなことをやってみたい』とアイデアを持ち込んできたら、僕らは、彼らの挑戦に対して謙虚に、フラットな関係で向き合います。『ダメ』というやなしに、『あんたがいいよることは、僕らには理解できんと』と。『せやから、まず、やったらええんちゃう』という具合に、挑戦を後押しするわけやね」(大南)

「第15回ヴェネツィア・ビエンナーレ」において、日本館のキュレーターを務めた東京理科大学理工学部建築学科教授の山名善之さんは、「en(縁):アート・オブ・ネクサス(つながりのアート)」をテーマに掲げ、「創造的過疎」をキーワードに据えました。
そして、「創造的過疎」のコンセプトメーカーである大南さんと、神山町において「えんがわオフィス」や「神山バレーサテライトオフィスコンプレックス」などの設計を手掛けた建築ユニット「BUS」を招聘したんですね。
その日本館の展示は、国別参加部門において約60カ国中で第2席に当たる審査員特別表彰を受賞しました。

いま、日本に限らず、少なからぬ国々が、過疎化や高齢化の問題に直面しています。“神山モデル”は、日本の過疎地だけでなく、世界の過疎地にとって、一つの道標となり得るでしょうね。

 

 片山修著『ふるさと革命――“消滅”に挑むリーダーたち』詳細ページ

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