Loading...

経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

<ふるさと革命③>甲州ワインを世界へ!女性醸造家の挑戦

政府は、「女性の活躍の推進」が、日本経済の成長を促すとしています。
確かに、女性ならではの視点が、消費の促進、組織の危機対応力の向上などに貢献することは考えられます。これは、地方創生においてもいえることです。
「ふるさと革命」をリードする女性の例を紹介します。

14年6月、世界最大級にして、もっとも信頼されるワインコンクールの一つ「デカンタ・ワールド・ワイン・アワーズ(ロンドン)」において、「キュヴェ三澤 明野甲州 2013」が、金賞とともにアジア地域の最高賞「リージョナルトロフィー」を獲得しました。
金賞の獲得は、15007銘柄中、158銘柄。
快挙の立役者は、じつは、世界でも数少ない女性醸造家の三澤彩奈さんなんです。

p4120414
※ブドウの苗木を見つめる三澤彩奈さん

「キュヴェ三澤 明野甲州 2013」に用いられたブドウの品種「甲州」は、2010年、日本固有品種としては初めてOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に登録され、国際的な品種として認知されるようになりました。

三澤さんは、山梨県北杜市明野町にある中央葡萄園で、36歳にして取締役栽培醸造部長を務めています。訪ねると、つなぎの作業服で迎えてくれました。
「『甲州』は、間違いなく地域資源です。ワインづくりの世界では、地元の品種があるのは、それだけですごいアドバンテージになります」
と、彼女は語りました。

三澤さんは、醸造家としてワインづくりを手掛けるだけでなく、自ら世界中を飛び回り、「甲州」や「山梨」のブランドを世界に売り込んでいます。その原動力は、自らが生まれ育った郷里への“地元愛”なんですね。

三澤さんの実家はである中央葡萄園は、1923年創業のワイナリーです。祖父も、父も、醸造家でした。
大学生時代から本格的に醸造家を目指し、ボルドー大学醸造学部に留学。醸造やテイスターについての資格に加え、ブルゴーニュの専門学校で栽培醸造上級技術者資格を修得、さらに南アフリカのステレンボッシュ大学の大学院に一か月間に渡って留学しています。

帰国後、社長を務める父親の三澤茂計さんと共に、「甲州」の垣根式栽培に挑戦を開始したんですね。従来、「甲州」では難しいとされていた「糖度20度」を超えるブドウをつくるため、試行錯誤を重ねるんです。

また、効率よくワイン醸造の経験を積むために、ホームの山梨と南半球の都市を半年ごとに行き来し、6年間にわたって、年2回の醸造の経験を積みました。その行動力のすごさに驚きますよね。
この武者修行を通じ、彼女は、醸造だけでなく、マーケティングやプロモーションの必要性など、地方からグローバルにモノやコトを発信するすべを学んだんですね。

糖度20度を超えるブドウが実ったのは、12年でした。「高畝式(リッジシステム)」と呼ばれる方法を採用した水分コントロールが奏功しました。そして13年、冒頭の賞の受賞につながったんです。

ご存じのように、日本ワインは近年、世界的に高い注目を集めています。
13年には、ワインにおける地理的表示としては初めて、「山梨」が国税庁告示によって指定されました。すなわち、「Japan」ではなく、「G.I. Yamanashi」の表示をして、輸出が可能になりました。
ワインは、産地の表示が狭ければ狭いほど、ブランド価値が高まります。「Yamanashi」の地理的表示が可能になったことは、山梨県のワイン業界にとって大きなステップなんですね。

「地方創生というとき、“横の流れ”よりも、“縦の流れ”は、とても大事だと思います。祖父や父、母から、私が引き継いでいるものがありますよね。その〝縦の流れ〟のなかで、山梨を誇る思いが引き継がれ、強められている。それが大切だと思うんです」
三澤さんの言葉です。

p4120406
※北杜市明野町に広がるブドウ畑

彼女は、今後、「山梨」をさらに細分化し、よりブランド価値を高めたいと考えています。
「近所の農家のおじさんが海外にいったとき『甲州ワイン』が置いてあって、産地として『茅が岳』なんて入っていたら、誇らしいと思うんです。ラッフルズホテルに入ってそんなワインが扱われているのを見たら、きっと誇らしい。地方創生って、そういうことではないでしょうか」(三澤さん)

「甲州」を、山梨から世界へ発信する。
彼女の挑戦は、女性の視点だけでなく、地場産業のグローバル化、ブランド化、マーケティング戦略を考えるうえでも、示唆に富んでいます。

 片山修著『ふるさと革命――“消滅”に挑むリーダーたち』詳細ページ

<関連記事>
<ふるさと革命①>インバウンド誘致は高山市に学べ!
<ふるさと革命②>若者はなぜ神山町を目ざすのか
<ふるさと革命④>デンマーク育ちが和包丁を売るわけ
<ふるさと革命⑤>高松丸亀町商店街の復活劇
<ふるさと革命⑥>漁業の復活に賭けるCSN地方創生ネットワーク
<ふるさと革命⑦>”限界集落”色川地区が移住促進に成功したワケ
<片山修の新著のお知らせ『ふるさと革命――“消滅”に挑むリーダーたち』>

 

 

ページトップへ