29日に開幕する「東京モーターショー」の60周年を記念して、24日午前、各年代を象徴する四輪、二輪など70台が、東京・日比谷や銀座をパレード走行しました。これについて所感を述べたいと思います。
名車のハンドルを握ったのは、各自動車メーカーのトップです。トヨタ自動車社長の豊田章男さんは、レーシングスーツ姿で参加、90年代に人気を博したスポーツカー「セリカGT-Four」を運転しました。ホンダ社長の八郷隆弘さんは2000年代の「NSX-S」、マツダ社長の子飼雅道さんはロータリーエンジンの「コスモスポーツ」、富士重工業社長の吉永泰之さんは、1958年に発売された軽自動車「スバル360」のハンドルを握りました。
「集まっている名車の数々を見て、大人はなつかしいと思い、若い方は昔のいいものはいつになっても普遍的に美しい、すばらしいと再確認してもらえると思う」
そう挨拶したのは、日本自動車工業会会長の池史彦さんです。
パレードは、池さんの運転するホンダ最新の軽スポーツカー「S660」を先頭に、1954年に一回目のモーターショーが開かれた日比谷公園脇をスタートし、大手町、日本橋、銀座を経由する約6キロを進みました。沿道では、手を振ったり、「東京モーターショー60周年」の旗を掲げたりする多くの観客の姿が見られましたね。
車離れ、国内新車販売の落ち込みが指摘されますが、自動車ファンがいなくなったわけではない。池さんは、「沿道で手を振ってくれる観客を見て、車はまだまだ、捨てたものじゃない」、日産副社長の西川廣人さんは、「沿道の反響は、走っていて楽しく、嬉しくなった」と話していました。
各社のトップ以外にも、パレードには、懐かしの車のオーナーが参加しました。部品集めや整備など、車好きのオーナーが想像を絶する手間暇をかけてこそ、「コスモスポーツ」も「スバル360」もナンバープレートをつけて公道を走ることができた。そこには、豊田章男さんのいう“車への愛”がありますよね。自動車ファンは健在だということでしょう。ちょっぴり残念だったのは、沿道で手を振る人の中に若者が少なかったことですかね。
ご存じのとおり、鉄道ファンは、親しみを込めて“鉄ちゃん”と呼ばれます。列車に乗ること自体が目的の“乗りテツ”、列車や車両の撮影に熱中する“撮りテツ”、軌道音や社内放送を録音する“音テツ”、さらに女性の鉄道ファンの“テツ子”など、若い人から高齢者まで、つまり老若男女、思い思いに鉄道の魅力を楽しんでいる。
それでいうと、車も“乗りクル”、“撮りクル”、“音クル”などがいていい。
それにしても、鉄道会社は、ファンづくりに力を入れています。JR九州の豪華列車「ななつ星in九州」、JR東日本の「足湯」つき列車やお座敷指定席など、乗ること自体が目的になるような列車がつぎつぎと誕生していますよね。
さらに10月14日の「鉄道の日」には、鉄道会社が鉄道にまつわるイベントを開き、鉄道に触れるきっかけをつくっているほか、さいたま市大宮にある鉄道博物館では、鉄道遺産の保存、車両の実物展示のほか、子どもたちが模型やシミュレーションで鉄道について体験的に学習する機会が設けられている。
実際、廃止される夜行特急ブルートレインなどの“サヨナラ列車”には、ホームにあふれんばかりの人だかりができている。自動車ファンの“開拓”の努力はまだまだ足りないのではないか。ただ、自工会が昨年からはじめた自動車メーカートップによる大学での“出前講義”は、私は高く評価していいと思っていますが、もっともっとアイデアを出していいのではないでしょうか。
もちろん、自動車会社もさまざまなイベントを催していますし、自動車博物館もあります。しかしながら、ファンづくりという点ではいま一歩、鉄道に負けているような気がしないでもありませんね。自動車ファンが、“車への愛”を高めていけるように、もっと知恵をしぼっていいんじゃないでしょうか。
日本初の鉄道路線開業は、1872(明治5)年です。ちなみに、トヨタが初の乗用車AA型を発表したのは1936(昭和11)年です。また、日産の前身のダットサン自動車販売が小型乗用車ダットサンを発売したのは、1932(昭和7)年のことです。まあ、歴史の違いでしょうかね。
日本の鉄道は、長い時間をかけて鉄道文化を育んできた。そこで車を愛する者として提案ですが、日本自動車工業会が音頭をとって、「鉄道の日」に対抗して、「自動車の日」を“制定”してはどうでしょうかね。そして、大々的に毎年、イベントを組む。そろそろ自動車文化が根づいてもいいと思うんですが、どうでしょうか。