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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

なぜいま、トヨタがEV開発なのか

どちらかといえば、EV(電気自動車)に対して消極的だったトヨタが、満を持したかのように、EVの開発に本腰を入れます。その背景を探ってみましょう。

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次世代環境対応車には、トヨタが誇る「プリウス」に代表されるHV(ハイブリッド車)に加え、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)、EV、クリーンディーゼル車など、さまざまなタイプがあります。

これまで、トヨタは次世代環境対応車をめぐって、お得意の“全方位”戦略をとってきました。
ただし、HV、PHV、FCVを中心に開発を進め、EVについては、消極的でした。EVといえば、トヨタというより、むしろ「日産リーフ」ですよね。

ところが、ここへきて、トヨタが量産を視野に入れたEVの開発に注力するのを、どう見たらいいのか。

方針の大転換と、騒ぐことではないと思います。
というのは、電気自動車の世界販売台数は15年に約33万台。全体の0.4%未満に過ぎませんね。EVが普及しても、エンジン車にとってかわるのは、まだまだ先の先のことですからね。
ただし、2030年にはEVは全体の8%という予測もあるなかで、トヨタにとってEVの開発、そして早期の量産が、一つの“決断”だったのは、間違いありませんね。

背景にあるのは、世界的な環境規制の強化です。米カリフォルニア州では、HVは2018年以降、ZEV規制の対象から外れます。
トヨタは究極のエコカーとしてFCVに注力してきましたが、本格的に開発しているメーカーは少なく、インフラも未整備で、米国はおろか、日本における普及すら、それこそまだ先の先のことです。
新しいZEV規制に対応するために、手っ取り早いのが、EVなんですね。

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※トヨタのハイブリッド車「プリウス」

11月8日に行われた2016年度第2四半期決算発表会の席上、トヨタ自動車副社長の伊地知隆彦さんは、「トヨタにとっての究極のエコカーはFCV」と強調したうえで、次のようにコメントしました。
「ゼロエミッションの達成にはFCVと、EVという選択もある。われわれのビジネスは、車種も地域もフルライン、全方位。どこかがダメでも、別のものが補う。リスク管理といってもよろしいかもしれない」
要は、トヨタにしてみると、FCV一本は不安だと。ましてや、世界的なEV普及の波に乗り遅れれば大変なことになりかねないと考えたんでしょうね。

ちなみに、7日に行われた日産の決算発表会の席上、日産共同CEOの西川廣人さんは、トヨタのEV開発について、記者の質問に答えてこうコメントしています。
「こういう動きになるのは当たり前だと思っていた。EVのポートフォリオが広がっていくことは想定していたので、トヨタさんの動きは想定の範囲内で、歓迎される動き。EVをもっているか否かではなく、どれだけ魅力や競争力のあるEVを提供できるかが問題」

いずれにしろ、EVが、わずかとはいえ次世代エコカー戦争で有利になってきた理由の一つには、技術進化があります。
EVのデメリットは、よくいわれる通り、航続距離の短さや充電時間の長さ、充電ステーションの未整備などです。うち、航続距離は、ここにきてかなり伸びてきました。
今夏、テスラが発売した「モデルS P100D」の推定航続距離は、613㎞と、市販EV初の600kmを達成。メルセデス・ベンツも2020年ごろに航続距離500kmのEVを発売する予定です。
これだけ走れば、ガソリン車とほぼ同等です。

もっとも、航続距離の問題が解消しても、充電時間の長さや充電ステーションの少なさは、これから解決しなければいけません。

断るまでもなく、EVは、ガソリン車やHVとは、プラットホームも違えば、部品も、つくり方も大きく違う。
トヨタは、これまでも細々と開発していたとはいえ、本命として取り組んできた日産やテスラと勝負できるモノをつくるには、少し時間がかかるのではないでしょうか。

トヨタの読みとしては、EVの開発競争に乗り遅れないためのギリギリの決断だったということではないでしょうかね。

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