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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

トヨタの新体制は、あくまで現場重視

トヨタ自動車が大きく変わろうとしています。なかでも注目したいのは、社長の豊田章男さんによる明確なメッセージです。

トヨタは1日、2017年度の新しい経営体制を発表しました。副社長には、企業内学校「トヨタ工業学園」出身の河合満専務役員を登用しました。

河合さんは、1966年にトヨタ工業学園を卒業し、トヨタ自動車工業に入社しました。本社工場鋳造部長、同副工場長、ユニットセンターエグゼクティブ・バイス・プレジデントを歴任するなど、半世紀にわたって工場の第一線で活躍しました。つまり、純粋な現場たたき上げ派です。

河合さんは、副社長として、工場統括と安全健康推進部を担当し、現場の力を高める役割を担います。

また、現トヨタ工業学園長の田口守氏を専務役員に登用しました。田口さんは、70年にトヨタ工業学園を卒業、トヨタ入社後は、技術管理部安全健康推進室長などを経て、製造現場や人材教育の経験を重ね、2014年からトヨタ工業学園長を務めてきました。

この人事は何を意味するのか。豊田章男さんの“現場重視”の強い意思のあらわれと見ていいでしょう。

トヨタ工業学園は、旧トヨタ自動車工業が1938年に設立した豊田工科青年校が前身で、卒業生は、累計1万8000人を超えます。

中学を卒業したばかりの生徒たちは、最初の一年間、寮生活が義務づけられ、集団生活をベースに社会人としての良識や正しい勤労観が教え込まれます。同じ釜の飯を食べながら、ものづくりに求められる協調性やチームワークを身につけるんですね。

一年次で全員共通の基礎実習を受け、技能の基本を徹底して学習します。基礎実習の講師は、現場の第一線で活躍するトヨタの社員です。

二年次からは、専攻科に分かれて、将来の仕事に直結する技能専門コースを受けます。二年次、三年次は、実際に工程を体験します。「改善」の思想もみっちり叩き込まれます。

卒業生は、トヨタ入社後、班長、組長、工長と出世する過程で、それぞれの立場で部下を指導し、技能を伝承する役割を担います。生産現場の5人に1人が学園卒業生で、国内外の生産拠点を支える原動力になっています。

トヨタ工業学園は2月23日、愛知県豊田市のトヨタ本社で卒業式を開きました。

卒業式では、豊田章男さんが196人の卒業生の代表に職業訓練の修了証書を授与し、「個性や能力、絆という強みを発揮し、適材適所で活躍することでトヨタを支えてほしい」と激励しました。

「トヨタの現場の強さは、このトヨタ工業学園を抜きにしては考えられません」
トヨタの生産調査部のあるOBは、そう語っていました。

ロボット、AI、ビッグデータなどが製造現場に入り込むなかで、モノづくりの現場を支える作業員の力は軽視されがちです。人の仕事は、ロボットやAIにとってかわられるのではないかという悲観論が囁かれます。

現場の知恵や経験、仕事に対する気概や誇りが、ないがしろにされる風潮さえ見られます。

トヨタは、必ずしもそうは考えていません。IoT時代になればなるほど、逆に現場が大切だと考えています。

豊田章男さんはつねづね、「うちは現場でもっている会社」だと口にしています。得意の「改善」は、現場の力そのものですからね。

経営環境の劇的な変化のなかで、企業はあらゆるものを変える必要に迫られています。しかしながら、変えてはいけないものもあるんですね。

ロボット、AI、ビッグデータなど最先端技術への対応は、確かに大切です。ただし、そうした先進技術をとりこみながら進化を遂げるには、これまで以上に高い技能をもった人が現場には必要だということですね。

豊田章男さんが、新体制において現場重視のメッセージを発したのは、いま一度、現場を強くしなければ、さらなる成長はないと考えているからにほかなりません。

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