意外な企業から意外な話が飛び出しました。どういうことでしょうか。
ボッシュ日本法人は8日、都内で開かれた「年次総会」において、AIを活用したハウス栽培向け病害予測システム「プランテクト」の受注を、今月から日本国内で開始すると発表しました。
ボッシュと聞けば、世界的に名が知られた自動車部品メーカーです。実際、2016年の売上高において、自動車関連が占める割合が43.9%にのぼります。そのボッシュが、農業への参入を宣言したんですね。
「プランテクト」は、センサーと通信機で構成されています。ハウス内に、温度、湿度、二酸化炭素量、日射量を測るセンサーを設置し、得られた情報を通信機を介してボッシュのクラウドに集めます。生産者は、パソコンやスマートフォンを通して、いつでもどこでもハウス内の環境を確認することができます。
また、クラウド内に組み込まれた「病害予測アルゴリズム」が算出した病害発生に関するリスクを受け取ることにより、生産者は的確な時期に農薬を散布することができます。
「本来は、感染の前に予防薬をまくのがいい。しかしながら、病害対策のむずかしさは、適切なタイミングが目に見えないということです」と、ボッシュのFUJIプロジェクトリーダーの鈴木涼祐氏は説明しました。
「プランテクト」の「病害予測機能」を使えば、病害の感染リスクが92%の高精度で通知されるため、タイミングを逃さずに農薬散布ができるということなんですね。
それにしても、どうして、自動車部品メーカーのボッシュが農業なのか。じつは、日本ではあまり知られていませんが、ボッシュの事業領域は、自動車関連の技術には限らない。
ボッシュの売上高のうち、自動車関連に次いで多いのが消費財で、17.6%を占めます。洗濯機、冷蔵冷凍庫、オーブン、食洗器、掃除機、コーヒーメーカーなど、家庭用電化製品を手掛けている。
そして、ボッシュが近年、力を入れているのが、あらゆるものがインターネットにつながるIoTとAIです。すでに、モノとモノ、人と機械がつながる、コネクティッドインダストリーには実績があります。
IoTとAIに力を入れるうえでの強みは、ボッシュがMEMS(微細センサー)技術をもっていることです。
MEMS技術は、社会インフラや健康機器などに組み込まれ、モニタリングなどに活用されていますが、本格的なIoT時代が到来すれば、その数は爆発的に増え、データを集める拠点も拡大していくことが予想されます。
ボッシュは、ここに商機を見ているんですね。農業を含め、あらゆる産業においてデータをやりとりするサービスを手掛ければ、とてつもない収益を手にすることができるからです。
「オートモーティブと同じように、農業にも参入していく」と、記者会見の席上、ボッシュ日本法人社長のウド・ヴォルツ氏は語りました。
会見場で配布された「スマート農業向け革新的ソリューションの発表」というタイトルのプレスリリースを目にしたときは、一瞬、「ボッシュが農業?」と思いましたが、話はボッシュが単に農業に参入するという話ではなかったんですね。
実際、パナソニックや富士通など、日本の大手企業も植物工場ビジネスを手掛けていますが、それら企業が植物工場そのものに商機を見ているのに対して、ボッシュはデータサービスを収益源と見ているところに違いがあります。
ボッシュの狙いは、IoTとAIをビジネスチャンスと見て、新しいビジネスモデルをつくることです。つまり、ボッシュにとって、農業への参入は、本格的なIoT時代における事業拡大の答えの一つに過ぎない。
ボッシュがわざわざ、「年次総会」で農業参入を発表した理由が、そこにあるといえるでしょう。