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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

インバウンドの隠れた課題とは

せんだってスペインの代表的観光地バルセロナでのテロで、たくさんの観光客が犠牲になりました。観光立国ニッポンとして、テロとは別に、いずれ克服しなければいけない隠れた課題があります。観光客と定住者、どちらを優遇すべきかという問題です。

2016年の訪日観光客数は、前年比21.8%増の2403万9000となり、過去最多を記録しました。昨年1年間の訪日客による消費額も、前年比7.8%増の3兆7476億円となり、過去最高でした。

政府は、2020年に訪日客4000万人、消費額8兆円の目標を掲げていますよね。

なぜ、観光に力を入れるのか。地方経済を潤し、ひいては日本が力強い経済を取り戻すために極めて重要な成長分野だからです。

その意味で、アジアをはじめとする世界各国からの観光客の増加は、ありがたいことです。しかし、その一方で、じつは新たな課題が浮上しているのも事実で、今後、社会問題になるでしょうね。

わがスタッフの一人が、6月下旬の土曜日、「あじさい寺」で知られる北鎌倉の明月院を訪れました。混雑は覚悟していたそうですが、想像以上だったといいます。

最寄駅のJR北鎌倉駅を降ると、明月院山門まで行列が続いていた。気をとりなおし、江ノ電に乗るために、鎌倉駅へと向かったところ、こちらも人があふれていてホームにすら入れなかった。日本人観光客もたくさんいましたが、かなりの数の訪日観光客を見かけたそうです。

なぜ、観光客は特定の観光地に集中するのか。そこに魅力があるからですが、一点に集中するのは、インスタグラムなどSNSへの投稿で情報が拡散されるからですね。

勢い、特定の地域にどっと観光客が押し寄せることになる。確かに、商売は繁盛するかもしれないけれども、生活者の立場からすると、いいことばかりではないんですね。グローバル化の弊害といってもいいでしょうか。

じつは、大挙して押し寄せるインバウンド対策の一環として、鎌倉市は17年5月6日、江ノ電混雑時における沿線住民の移動円滑化を図るための社会実験を行いました。

江ノ電沿線に在住、在勤、在学していて、証明書を提示した人を対象に、優先的に駅構内に入場できるようにするという実験です。

実験は1日だったにもかかわらず、鎌倉市によると、1200人から証明書の申請があったということです。沿線住民がいかに電車の混雑に悩まされているかがわかりますね。つまり、住民にとっては、観光客は頭痛の種です。

人気の観光地への集中は、京都や富士山周辺などでも起きています。

政府は、外国人に人気の観光地が、東京、富士山、関西をめぐる「ゴールデンルート」に集中していることから、地方の魅力の掘り起こしや、地方の複数県をまたぐ観光ルートの作成を急いでいます。観光地の分散は急務なのですが、むろん簡単ではありません。

観光立国を謳う以上、少々の不便ないしは我慢は覚悟しなければいけないのは当然ですね。ただ、観光客の増加に頭を悩ませているのは、日本だけではありません。先駆的な例があります。テロのあったバルセロナです。

テレビの報道番組が流していたんですが、スペインのバルセロナでは、1992年に行われたオリンピック以降、観光客の誘致を続け、いまでは世界屈指の観光都市になった。ところが、世界中からあまりにもたくさんの観光客が押し寄せ、いまや、町には「観光客は帰れ」という落書きがあふれているというんですね。

騒音のほか、観光客用の民泊の急増、家賃の高騰などが地元住民の暮らしを脅かし、地区から出ていった住民も少なからずいるそうです。

地方の活力を高めるためには、人の行き来がカギになるとして、日本も国をあげて、外国人観光客を誘致していますが、このままいくと、日本の観光地も、バルセロナと同じで、観光客が町にどっとあふれ、生活に支障が出かねない。そうならないために、知恵をしぼらなければなりません。

地元住民からすれば、観光客がどっと押し寄せるのは迷惑かもしれません。しかし、観光客がもたらす消費が地元経済を支えているのも、まぎれもない事実です。年間2000万人を超える外国人旅行者の消費が、いまの日本を下支えしていることを忘れてはいけませんからね。

観光立国を目指す以上、ある程度の痛みは覚悟しなければいけないでしょう。また、日本が世界に開かれた国であるためにも、外からやってくる人たちを受け入れるだけの、心の余裕をもちたいものです。

と同時に、外国人観光客の地方への分散を図るなど、いまからインバウンド対策に知恵を働かさなければいけないと思います。そうしないと、いずれ、こうしたインバウンドの副作用が社会問題化するのは間違いないでしょうから。

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