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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

三菱自動車の「不幸な従業員」をつくらないモノづくり

日本のモノづくりの信頼を失墜させる事態が続出しています。なぜ、日本の大手企業は不正に手を染めたのでしょうか。どうすれば、「メード・イン・ジャパン」の信頼を回復させることができるでしょうか。


※三菱自動車本社

日産自動車とスバルの工場では、無資格従業員が完成車両の検査をしていたことが明らかになり、神戸製鋼所では、アルミ・銅事業の国内4拠点での不正のほか、鉄鋼や機械事業の一部でも過去に不正があったことが発覚しました。

いったい、何が原因なのでしょうか。

神戸製鋼所が10日に発表した「当社グループにおける不適切行為に係る原因究明と再発防止策に関する報告書」は、不正の原因として、「生産・納期優先の風土」「閉鎖的な組織」「改ざん、ねつ造を可能とする検査プロセス」「厳しすぎる社内規格」などをあげています。

報告書は、「この事態を引き起こした真の要因を把握し、二度と同様の事態を引き起こさないための再発防止策の立案と徹底こそが当社経営が果たすべき責務である」としていますが、果たして、それで不正の芽をつみとることができるでしょうか。

というのは、一連の企業の不祥事において、そもそも現場は、悪いことをしていると思っていたのかどうか。

答えは、「ノー」でしょう。

つまり、再発防止にはルールづくりも重要ですが、もっと大切なのは、経営者が現場の「人」に目を向け、現場の「人」をよく知ることなんですね。

「これは、昨年、我々が経験した問題として回答させていただきますが」と前置きして、三菱自動車CEOの益子修氏が、11月7日の決算発表説明会の席上、記者の質問に答えるかたちで、次のように語っていたのが印象的でした。


※三菱自動車の益子修CEO

ちなみに、三菱自動車は2000年以降、リコール隠しが相次いで発覚し、経営危機に直面しました。そして、16年4月、軽自動車の燃費データ改ざん問題が明らかになり、日産の傘下に入って、信頼回復に努めてきました。前線で指揮をとってきたのが、益子さんですよね。

少し長いですが、紹介してみましょう。

「現場にいて作業していた人たちは、法律を犯しているとか、悪いことをしているとか、お客さまに迷惑をかけるという認識は、恐らく持たずに、『やっていることは正しいんだ』という思い込みがあった。

となると、現場にある思い込みを見つけて、『これは正しくないかもしれない』ということを知らせていく作業が必要になってきます。

これは、それほど簡単ではない。思い込んでやっていると、なかなか当事者は見つけにくいと思うんですね。やっぱり外の目、他人の目、第三者の目、これがなきゃいけない。

それと、ローテーションしなければいけない。効率を考えると、ベテランでよく知っている人に任せたい。その方が安心だよねという気持ちもある。だけど、そこは心を鬼にして、新しい人に新しい視点で任せて、『いままでやってきたことが正しいのか?』を見させないと、たぶん、この問題は解決できないんだろうなというのが、我々の経験を通してわかったことなんですね」

「それと、もう一つ」として、益子氏は次のように語りました。

「例えば、岡崎工場を考えればわかるように、そこは非常に狭い社会なんですね。子供は同じ学校に通い、奥様方の交流もあります。そうしたなかで、『あなたのやっていることは間違っています』ということは、非常に取り上げにくいという面が、現実にはあると思うんですよ。

一つの社会を構成しているなかでも、やっぱりダメなものはダメだよねといえる環境づくりが必要なんだということは、あらゆる経験からわかったことですが、そうなると、ちょっと哲学的な話になるけれども、性善説を会社の仕事の中に取り入れていること自体が正しいことなのかと。

やっぱり人間は間違いを犯すよねと。あるいは、とんでもないことをしでかすかもしれないよねという前提のもとに仕事をしていくというように、社員にとっては気持ちのよくない話もしていかなければいけない。

で、ここがポイントだと思うんですけど、間違いを犯した、ミスをした従業員は、とても不幸だと思うんですね。家族にとっても不幸だと思うんですよ。

『あなた間違いをしましたね』と社会から糾弾されるというのは、従業員も家族も大変、奥さんや子供も大変です。

すると、間違いを犯す従業員をつくらない仕組みづくりというアプローチが、きっと一番いいと思うんです。あなたを責めているんじゃないんだと。あなたを不幸な目に遭わたくないから、我々はいろんな手を尽くすんだというアプローチ以外にないというのが、じつは私の個人的結論なんですね。

『あなた間違いをするかもしれませんね。だから、あなたのやっていることは信じませんよ』じゃなくて、『あなたが間違いを犯したら、あなた自身にとって、とても不幸ですよ。家族もつらい思いをしますね。それを未然に防ぎましょう。それにはどうしたらいいでしょうか』というアプローチしかきっとないだろうと」

「いまも新しい発見がある。信頼回復に終わりはないと思っている」と、会見の席上、益子氏がいみじくも語ったことからもわかるように、益子さん自身、信頼回復に日々、頭を悩ませ、再発防止策を自問自答し続けてきたであろうことは容易に想像できます。

その答えが、「間違いを犯した従業員は不幸だと思う」という言葉に凝縮されているといっていいでしょう。

三菱自動車は、「不幸な従業員をつくらない」ための仕組みとして、国内外のすべての工場の完成車検査工程において、指紋認識機能付きタブレット端末を導入し、検査データの改ざんの余地をゼロにする計画です。

日本が誇る現場の力に頼るだけでは、日本のモノづくりは強くなれません。コスト削減や納期重視などの重圧がのしかかるなかで、現場に頼りきってしまっては、不正の構図を断ち切ることはできないでしょう。

どうすれば、日本のモノづくりを再び強くし、信頼を取り戻すことができるか。カギとなるのは、AI(人工知能)やIoTなど最新のテクノロジーを導入し、「不幸な従業員」をつくらないことではないでしょうか。

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