利用者が毎月、定額を支払う「サブスクリプション」型のサービスが広がっています。トヨタ自動車は、日本のメーカーで初めて、クルマの定額利用サービスに乗り出しました。自動車メーカーが定額サービスを手掛ける意味はどこにあるのでしょうか。
※キント社長の小寺信也氏
トヨタの定額利用サービスは、3年間で一台のトヨタ車に乗ることができる「キントワン」と、3年間で6種類のレクサスブランドを乗り継ぐことができる「キントセレクト」の二種類です。
どちらも、任意保険の支払い、自動車税、登録諸費用、車両の定期メンテナンスが月額料金に含まれています。
事業化の発端は、「新しいクルマの売り方を考えてほしい」というトヨタ社長の豊田章男氏の一言だったと、キント社長の小寺信也氏は述べました。
実際、国内の新車市場は縮小の一途をたどっています。従来の販売方法では、トヨタの国内5000店舗の販売店は生き残れません。
この苦境を乗り切るために、トヨタは、定額制を採用した新たなビジネスモデルの取り組みを決断したんですね。
「不透明な将来に向けて先手を打ったんですね。このチャレンジは、およそ従来のトヨタでは考えられないことです」(小寺氏)
事業化には、スピードが求められました。小寺氏は、「スタートアップ企業なら、どういう仕事の進め方をするだろうと考えました」と語りましたが、だからこそ、トヨタはお得意の〝自前主義〟を捨てて、住友三井オートサービスと手を組みました。
トヨタは、「キント」で何をしようとしているのか。
定額サービスで気軽にクルマを利用してもらうのは当然ですが、それに加えて、インターネットを通して顧客とつながるところに、トヨタは新たな商機を見ています。
「キント」は、全国の販売店に加えて、インターネットからも申し込みができます。実店舗とインターネットの双方から顧客とつながることで、顧客に適切なサービスを提供しつづけることができます。
トヨタは、クルマへのDCM(車載専用通信モジュール)の標準搭載を進めています。つまり、「キント」のクルマが走れば走るほど、DCMにデータが集まってくる。そのデータを分析すれば、顧客一人一人にマッチしたサービスを提供できる。そこにトヨタの狙いがあります。
また、「キント」は、顧客の運転の安全の度合い、エコの度合いなどを判定し、それに応じたボーナスポイントを還元するのも特徴です。判定は、DCMを通してモニターされることが想定されます。
「クルマの使われ方がリアルにわかるようになります。つまり、データの積み重ねが商品開発にも生かせます。ゆくゆくは、技術開発とデータをシェアして、自動運転の開発にも役立てていければ」と、小寺氏は述べました。
トヨタが注目しているのは、データ活用による価値の創出です。その意味で、サブスクリプションが自動車メーカーにもたらす可能性は小さくないといえるでしょう。