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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

VWピエヒ氏とスズキ修氏の誤算

報道されている通り、長年スズキ社長を務めた鈴木修さんが、会長兼CEOに退きました。後継者は、修さんの長男の俊宏さんです。株主総会の4日後という異例のトップ人事です。背景には、独フォルクスワーゲン(VW)との提携解消の難航があります。

経緯を振り返ってみましょう。
鈴木修さんは、社長時代、GMやいすゞとの提携、インド市場の成功など経営手腕を発揮してきました。07年の売上高は過去最高で、就任当時の約10倍になりました。
ただし、08年、GMとの提携を解消してから、成長はほぼストップしています。翌09年にVWと包括提携で基本合意し、VWはスズキ株の19.9%を取得しました。しかし、11年、スズキが提携解消を申し入れる事態になりました。
主因は、「自主独立」したいスズキに対し、VWが支配力を強めようとしてきたからです。

VWのトップは、当時、フェルディナント・ピエヒ氏でした。ピエヒ氏は、ポルシェ家につながる自動車一族の出身で、天才的なエンジニアでありながら、カリスマ経営者です。VWトップ時代、高級スポーツカーメーカーを次々と傘下に収めるなど、急成長させました。世界販売台数1000万台を達成し、トヨタと世界一を競う現在のVWをつくりあげた立役者です。
ピエヒ氏の下で働き、彼にプレゼンテーションをしたことがあるという人が、「あの人の目は、タカの目だ。人を殺した目をしている」と、真顔で話していました。

そのピエヒ氏が、スズキと提携した狙いは、どこにあったのか。インドで成功した小型車の技術と、アジア市場でしょう。

VWグループは、VWの乗用車ブランドに加え、アウディ、セアト、シュコダという乗用車ブランドがあります。さらに、英ベントレー、仏ブガッティ、ポルシェ、商用車のVWブランド、スカニア、マンもVWグループです。さらにさらに、アウディ傘下にはランボルギーニや二輪のドゥカティがあります。
ピエヒ氏は、スズキも、これらのブランドの一つにする魂胆だったのです。

修さんは、ピエヒ氏の魂胆を読み誤ったといえます。しかし、VWもまた、“中小企業のオヤジ”の人柄を見誤りました。“中小企業のオヤジ”は、VWの大きな傘の下に、おとなしく入るような性分ではないですからね。

スズキとVWの提携解消をめぐる国際仲裁裁判所の結論は、いまも出ていません。
修さんは、今回、「これ以上待つと事業計画が遅れる」と、社長交代を決断したわけですよね。

ただ、スズキは、VWの提携解消がうまくいったとしても、その後の戦略をどう描くのか。
ガソリンエンジン、ディーゼル、ハイブリッド、電気、燃料電池など、環境対応車の技術が多岐にわたって広がるなかで、今後、スズキが、単独で生き残っていくことは難しい。過去にスズキが成長してこられたのは、GMとの提携があったからこそです。

今後、スズキは、事業面を俊宏さんが担当し、経営統括と提携戦略を修さんが担当するといいます。役割分担ですか。修さんは、次なる提携先を探すつもりかもしれません。
CEOとして修さんが残るとはいえ、社長が代替わりした以上、問われるのは、俊宏さんの手腕であることは間違いありません。
かねてから“リスク”として指摘されてきたスズキの事業承継問題は、まさにこれから、いよいよ本番を迎えるわけですね。

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