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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

なぜホンダは日立と組んだのか

ホンダと日立オートモーティブシステムズは、昨日、電動車両用モーターの開発、生産、販売を手掛ける合弁会社を設立すると発表しました。
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※日立オートモーティブシステムズ社長の関秀明さん(左)と、ホンダ社長の八郷隆弘さん

資本金は50億円で、日立オートモーティブシステムズが51%、ホンダが49%を出資します。新会社は、日立オートモーティブシステムズのモーターの工場がある茨城県ひたちなか市に置き、日本で開発、製造、販売を行うほか、米国と中国に、製造と販売を手掛ける子会社を設ける予定です。

会見の席上、ホンダ社長の八郷隆弘さんは、次のようにコメントしました。
「電動化をさらに加速していくためには、より競争力のあるモーターをつくることが必要となります。そうした環境を踏まえて検討を重ねてきた結果、かねてよりお付き合いのあった日立オートモーティブシステムズさんと同じ志のもと、モーター事業に取り組むという結論に至りました」

ホンダはこれまで、モーターは自前で開発を進めてきました。浜松トランスミッション製造部に加え、昨年、鈴鹿製作所内にも新ラインを設けて増産体制をとった。大同特殊鋼と、重希土類のいらないモーターも開発している。

ホンダは、2030年をめどに世界で販売するホンダ車の3分の2を、HV、PHV、EV、FCVなどの電動車両にすることを目指しており、電動車両に不可欠なモーター増産は、必須なんですね。当面は、自社生産も継続する方針です。

では、なぜ、自前で優れたモーターをもつホンダが、ここへきて日立オートモーティブシステムズと組んだのでしょうか。ホンダ側から見てみましょう。

第一に、モーターは、装置産業です。しっかりと設備投資して量産することがコスト低減の近道ですが、簡単に工場を増設することはできないわけです。早い話が、ホンダ分のモーターのみでは、大幅な規模拡大は望めません。そこで、日立と組むことにしたんですね。

新会社は、ホンダに限らず他メーカーへの供給も視野に入れています。規模を確保してコストを下げる狙いがあるんです。

第二に、日立の技術力を買ってのことです。日立は、もともとモーターを祖業とする会社であることからもわかる通り、日立オートモーティブシステムズのモーター技術には一日の長がある。ホンダと日立の技術を持ち寄り、より優れたモーターを開発したい考えなんです。日立オートモーティブシステムズは、自動車用のモーターをトヨタや日産、GMに供給しており、モーターの性能にも、量産技術にも信頼があるんですね。

一方、日立としては、欧州のメガサプライヤーである、ボッシュ、コンチネンタルなどと伍していくために、やはり規模確保は欠かせません。日立本体にとっても、自動車関連の事業は、今後、成長が見込める分野であり、自動車メーカーの知見が得られる協業のメリットは大きいということです。

それにしても、何度も触れてきたことですが、ホンダはもともと、技術は自前主義の会社です。しかし、昨年から、AIの研究ではソフトバンク、自動運転技術の研究ではウェイモ(元グーグルの自動運転部門)と協業を発表。燃料電池では、先月、米GMと開発、製造、販売を手掛ける合弁会社を設立。今度は、日立と合弁会社と、立て続けに他社、おもに他業種との協業を拡大しています。

ここにきて一気に外部との協業に動いたのは、戦略転換といっていいでしょう。「垂直統合」が指摘される日本の自動車産業ですが、いわば「水平分業」に動いた。もっといえば、完全にオープン・イノベーションにカジを切ったということですね。

ホンダは、自前主義といいましたが、提携や合弁が下手なわけではありません。むしろ、米国の巨大企業、GEやGMと合弁会社をつくった経験があります。さらに、ソフトバンクやグーグルといったベンチャー気質のIT企業とも協業できるのは、ホンダ独特の企業風土があるからこそです。

もっとも、トヨタや日産が、自動車メーカーと提携してファミリーを拡大しているのに対し、ホンダはGMと燃料電池で協業していますが、いまのところ、技術開発は別として、EVや自動運転などの諸々の標準化、規格化については、“スタンド・アローン”を貫いています。

次世代環境対応車、自動運転、カーシェアリング、さらには米国との貿易摩擦など、自動車業界をとりまく嵐は、しばらくやみそうにありません。この嵐を生き抜くための各社の戦略が、少しずつ見え始めているように思いますね。

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