ソニーと東京大学は、次世代を牽引する技術系人材の育成と強化を目的に、2017年4月から20年3月まで、「ヒューマンオーグメンテーション(人間拡張)学」を推進していくと発表しました。ソニーが年間2500万円を出資して東京大学大学院情報学環・学際情報学府に寄付講座を創設します。
※体験会会場の本郷スタジオで説明する味八木崇さん
そもそも「ヒューマンオーグメンテーション学」とは、何なのでしょうか。
同大学院情報学環教授で、ソニーコンピュータサイエンス研究所の副所長を務める暦本純一さんが提唱するコンセプトなんですね。人間と一体化して、知覚、身体能力、存在、認知能力など、人間の能力を拡張させる技術を開拓するものです。具体的には、拡張現実(AR)、バーチャルリアリティ(VR)、AI、ロボティクス、サイボーグ、ヒューマンインターフェースなどを使い、人間とネットワークの融合、人間とAIの融合、学習能力の拡張などを図る。
※本郷スタジオでデモンストレーションをする学生
今日、体験会に用意されていた一つが、「JackIn Head」です。360度全周囲を撮影可能なウェアラブルカメラを使います。Aさんがそのカメラを装着して散歩する。その全周囲映像と音声通話を、Bさんにリアルタイム伝送する。Bさんは、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)やスクリーンなどで、Aさんの体験を共有しながら、音声通話でAさんとコミュニケーションをとることができる。
これを使えば、旅行を同時体験したり、料理のアシスタントなどが可能です。スポーツ選手がカメラを装着すれば、選手の視点でゲームを楽しむことができるなど、さまざまな使い方が考えられますよね。
それから、「Body Cursor」です。モーションキャプチャーを使い、「対外離脱視覚」で、自分の体の姿勢や動きを、リアルタイムで再現した「コピー」を目の前に提示してくれます。
スポーツをするとき、自分の体の動きをうまく捉えられる人は、上達が早い。ただ、初心者にとって、自分の体の動きを正確に捉えるのは難しい。「Body Cursor」は、例えば、バスケットボールのシュートのフォームについて、自分の体の動きを、目の前でリアルタイムに「コピー」したものを見ながら、シュートの練習ができる。上手な人のフォームより腕の位置が低いとか、膝が曲がってないとか、自分ですぐにわかるわけですね。
これらはほんの一例で、ヒューマンオーグメンテーションには、本当に幅広く、さまざまな可能性があるんです。
寄付講座担当教員は、同大学院情報学環の味八木崇さんが特任准教授に就く予定です。
「ソニーも『ラストワンインチ』といっていますが、われわれのやってきたヒューマンコンピュータインタラクションという研究分野はまさにその分野です。人間と新しい技術がどう関わっていくのか、それを通して人間の生活や人生がどう豊かになっていくのか、人類の進化がどうなっていくのか。それに対して情報学に何ができるのかを、このヒューマンオーグメンテーション学講座で考えていきたいと思っています」(味八木さん)
また、ソニー執行役員コーポレートエグゼクティブでソニーコンピュータサイエンス研究所社長の北野宏明さんは、席上、次のようにコメントしました。
「AR/VR、IoT、AIなどの技術が、人間の能力にどういうふうにインパクトを与えるのか、文明論的視座から骨太の議論をして大きな体系にまとめていくことを期待しています。技術論だけではなく、社会科学、人文科学、哲学、いろんなことを総合的に考えないと、この問題は方向が見えていかないし、パラダイムになっていかない。それを、実際にやっていただいて、そういうことを理解した人材を育成することが重要だと思っています」
※ソニーコンピュータサイエンス研究所社長の北野宏明さん(右)
最先端技術は、日々研究が重ねられ、進化を続けています。問題は、それらの技術をいかに実用化し、人間の生活を豊かにしていくか。当たり前のことですが、それを考えるのは人間しかいません。大切なのは、最先端の技術を社会に還元できる人材の育成であることは、間違いありませんね。
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