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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

中小企業の存続のカギを握るオンリーワン技術――富田製作所②

中小企業トップインタビュー:富田製作所社長 富田英雄氏②

 

富田製作所は、2014年4月、1フレーム構造の単体機としては世界最大級の1万6000トンの油圧プレス機を導入しました。建屋や付帯設備などを含めて投資総額は約30億円。同年度の同社の売上高とほぼ同じという、「無謀」ともいえる巨額投資でした。

しかし、オンリーワン技術を強みとして生き残っていくために、富田製作所はこの投資に踏み切った。巨大プレスが活躍できる仕事を獲得し続けることが、富田製作所の生命線です。

片山 何の仕事のメドも立てないまま導入し、一時は仕事がないと嘆いていらした1万6000トンプレスは、その後、活躍していますか。

富田 苦戦はしていますが、おかげ様でだいぶいろいろなお客様に使っていただけるようになりました。昨年9月末以降、フル稼働で、2直シフトの24時間操業体制を敷いていたほどです。
というのは、海洋構造物向け、圧力容器用、土木用鋼管杭、建築用プレスコラムなどの需要が増えているんですね。もっか、桟橋用の杭、それを支える角コラムなどです。


※富田製作所古河工場の1万6000トンの油圧プレス機

片山 桟橋ですか。

富田 2020年の東京五輪が注目を集めていますが、じつは、世界のスポーツイベントのなかで、開催地にいちばんお金が落ちるといわれるのは、サッカーのW杯、その次が夏季五輪、3位はラグビーW杯。そして、冬季五輪です。

片山 そうそう。むしろ、W杯だといわれていますよね。日本では東京五輪の前年の2019年にラグビーのW杯開催が決まっている。

富田 サッカーやラグビーのW杯でお金が落ちるのは、期間が長く、外国人観光客の滞在時間が長いのが理由の一つといわれます。しかも、先進国からのお客が多く、お金を持っている。彼らは、飛行機より豪華客船やクルーザーで日本にやってくるんですね。
ところが、日本には、豪華客船が停泊できる桟橋が少ないというので、日本は国策として巨大桟橋の建設を、全国的に進めているんですね。

片山 なるほど。つながりましたね。桟橋といえば杭はパイプですからね。富田製作所は、2010年に整備された羽田空港のD滑走路の桟橋構造において、滑走路を支える杭の鋼管をつくった実績と経験知がある。これはビッグチャンスですね。

富田 そうです。パイプは、うちの一丁目一番地ですからね。

片山 W杯に限らず、日本は現在「観光立国」を掲げて、外国人観光客を2030年に現在の約3倍の6000万人にするといっています。年間6000万人を受け入れるのは、飛行機だけではムリだとなっていますよね。豪華客船を入れる港の整備は、「観光立国」に必須というわけですね。

富田 はい。それと、海洋構造を手掛けられる企業は、じつはそんなにないんです。

片山 やはり、富田製作所の生き残りのカギは高い技術力にあるというわけですね。技術力といえば、東京駅の八重洲口に2013年に開業した「グランルーフ」のパイプも、富田製作所が手掛けましたね。

富田 グランルーフの鉄骨母材はみんなうちでつくらせていただきました。よく見ると、複雑なかっこうをしているんですよ。これらの製作には職人の技が欠かせません。逆にそれがいい宣伝になって、プロモーションに使わせていただいていますよ。

片山 オンリーワン技術をもつ富田製作所は、強いですね。

富田 ただし、オンリーワン技術を維持するためには、ずっと突っ走らないといけないんですよね。オンリーワンであり、ナンバーワンであるためには、本当に120%の力で走り続けていないと、すぐ真似されてしまいますからね。

高い独自技術をもつことは、中小企業が生き残っていくうえで大きなアドバンテージとなります。しかし、オンリーワン技術の地位を維持し続けるためには、つねに、より高みを目指して挑戦を続けていなければいけません。現状維持では、競争を勝ち抜いていくことはできないからです。

富田製作所が、1万6000トンプレスという度を越した巨額投資に踏み切ったことは、リスクを背負う大きな挑戦でした。しかし、この挑戦があるからこそ、今後もプレス機とそれを操る技術によって競争力を維持し続けられるのです。

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