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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

求められる新技術の開発――富田製作所③

中小企業トップインタビュー:富田製作所社長 富田英雄氏③

 

中小企業の生き残る道が「オンリーワン技術」にあるとはいえ、オンリーワンであり続けるためには、熟練の技の維持や継承と同時に、新しい技術や製品、サービスの開発を続けていかねければいけません。

社員180人の茨城県の中小企業、富田製作所は、世界最大級のプレス機導入に加え、高付加価値商品を生み出すことによって、競争力を維持しようとしています。

 

富田 2019年には「平成」が終わり、年号が変わる。これは、じつは景気のいい発表ですよね。というのは、年号が変わると結婚する人が増えるらしい。昭和も平成もそうだったんですよ。

片山 確かに、昭和や平成という年号は、時代の雰囲気をもっている。年号が変われば気分も新しくなるものかもしれませんね。平成は、「失われた20年」の時代でしたからね。

※富田製作所社長の富田英雄さん(左)と筆者

富田 結婚する人が増え、かつ五輪があって景気も上向けば、子どもも増えるかなと……。

片山 過去には、少子化から復活したフランスの例もありますから、日本もやりようによっては、人口を増やせるはずです。ただ、簡単ではありませんよね。人口減少社会のなかでは、インフラ投資も減らざるを得ない。需要が減るなかで、いかに生き残っていきますか。

富田 例えば、人口減少社会のなかで、高速道路や建築物の耐震性や耐用年数が求められるようになっています。したがって、研究開発による新しい商品や技術の開発が必要になる。新日鐵住金さんや、鹿島建設さん、ヨシモトポールさんなどとタイアップして、研究開発させていただいています。

片山 具体的に、どんな技術が求められるんですか。

富田 例えば、交通インフラや建築物の耐震性の観点から、コンクリートより鉄の方が軽量かつ高強度で、長持ちさせられるケースが考えられます。したがって、コンクリートに代替できる建材の研究開発などです。
それから、デザイン性と耐久性の両立です。例えば、どんなことがあっても50年はもつポールとかですね。
大手ゼネコンさんや鉄鋼メーカーさんは、他社との差別化が求められるときに、「技術をもつ富田製作所と組んでやろう」ということで、うちを選んでくださるんですね。

片山 富田製作所の競争力の源泉はどこかとなったら、やはり技術力にいきつくわけですね。また、すべてのビジネスに共通することですが、新しいもの、高付加価値の商品を生み出していかなければ生き残っていけない。その点、AIやロボティクスなどの新技術の出現を、どう見ていらっしゃいますか。

富田 例えば、1万6000トンプレスを使う仕事でも、矯正や端面加工などは、ITを使って画像処理して次にどこにどう力を加えるかを割り出すことなどはできるでしょう。が、それが“商売”になるのは、まだ先かと思います。

片山 ただし、つねにアンテナを立てておかないと、遅れてしまいますね。

富田 そうですね。いろんなことを頭に入れて商売をしていないと、すぐに浦島太郎になっちゃいますからね。新しい技術によって、何をどこまで、どのくらいできるようになったのかは、いつもチェックはしています。

片山 富田製作所の強みは、いまなお、熟練に最低5年はかかるという、ノウハウ、経験といった暗黙知にあるといっていい。以前、中国人の見学者が、「やり方はわかった。しかし、中国ではこれはできない」といったと、話していましたよね。


※富田製作所古河工場内

富田 匠の技については、おっしゃる通りです。また、暗黙知の重要性は、危機管理についてもいえます。現場の職人の力は重要なんです。例えば工場が、ただボタンだけを押す若者ばかりになると、小さな変化を感知できない。五感の効く職人さん達がいれば、「ちょっと今日は、匂い違うぞ。音が違うぞ」と事前に気付いて、危機に事前に対処できます。団塊世代が現場から離れ、熟練の職人が減っていることから起きる事故もあると思う。ですからも、AIやセンシングに頼るのではなく、現場がわかる人材を育てることは大事なんです。

AIやIoTなどの新技術が台頭するいま、立地や規模に関わらず、企業はその動向をつねにリサーチしておく必要があります。自社に取り入れられる技術は、積極的に導入していくべきであるのは間違いありません。

一方で、AIやIoTがいくら進化しても、それらを搭載するロボットなどハードウェアのモノづくりには、匠の技が欠かせない例は、いまだ多いといわれます。

さらに、モノづくり企業におけるカイゼン、すなわち、現場を見て「課題」を見つけ出す力である“課題創造力”は、いくらAIが発達しても、人間しか持ちえません。そして、“課題創造力”こそが企業の生産性、効率を高め、競争力を高めます。つまり、課題を見つけ出す力は、現場を知りぬいた人しか身につけられないんですね。

日本のモノづくり企業の強さの根底には、いまなお、現場、匠の技、そして、それを継承する人材にあるといっていいでしょう。

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