またまた失敗です。海外M&Aのことです。
東芝の経営危機の引き金が、米原発子会社ウエスチングハウス(WH)の巨額損失であることは、これまで何度もブログに書いてきましたが、過去のM&Aにともなう損失に苦しめられているのは、じつは東芝だけではないんですね。
日本郵政は、2015年に6200億円で買収した豪物流会社トール・ホールディングスの業績不振により、17年3月期に数千億円の損失が出る見込みです。
国内需要の伸びが期待できないなかで、手っ取り早く海外の成長を取り込んで成果をあげたいという焦りはわからないでもありません。また、手元資金が積み上がるなかで、成長を求めて積極投資に出るのも理解できます。
しかし、東芝と同様、日本郵政もまた、買収した企業の業績不振が経営の足かせになっています。
失敗例のニュースに触れるたびに、日本企業のM&Aの手法に何らかの弱点があるのではないか、はたまた日本企業はM&Aが不得手なのではないかと悲観的になりますよね。
では、なぜ、日本企業は、海外M&Aに失敗するのか。そもそも“M&A下手”から抜け出す術はあるのか。
しばしば指摘されるのが、デューデリジェンスの甘さです。何が何でも買収したいという焦りから、日本企業はどうしても、デューデリジェンスが甘くなりがちで、結果として「高値づかみ」になってしまうというんですね。
共通するのは、グローバル化への焦りです。日本郵政は、グローバル物流企業への脱皮を目ざしてトールを買収しました。東芝は、世界一の原発会社になることを目ざしてWHを買収し、大失敗しました。
世界企業への夢が、適正価格を大幅に上回る「高値づかみ」になるわけです。日本の会社は、人がよすぎるんですよ。
それから、買収した後、M&Aした企業の経営にどこまでかかわるのか。つまり、オペレーションおよびマネジメントができるのか。買収後の事業戦略をどうするのか。その展望も、覚悟もないように思えてなりません。
日本は現在、バブル末期の1980年代後半、ネットバブルの2000年初頭に続く、“第3の海外M&Aブーム”の真っただ中にあるといわれています。
日本企業がこれ以上、失敗を繰り返さないためには、適正な価格で、シナジー効果が見込める会社だけを買うという大原則を守ることではないか。
考えてみれば、日本郵政と東芝のM&Aには、なぜか、西室泰三氏のカゲがちらつきますよね……。
日本郵政が2015年5月、トールを買収したとき、社長を務めていたのは、西室氏でした。2006年の東芝によるWH買収を決断したのは、社長の西田厚聡氏ですが、西田氏を社長に推薦したのも、東芝を世界一の原発メーカーにすべく、水面下で動いたのも、西室氏だといわれます。
つまり、WHの買収とトールの買収の両方に、西室氏がかかわっている……ということです。偶然の一致でしょうかね。
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