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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

東芝の“政府による債務保証”説をどう見るか

日本政府が、東芝の半導体事業の売却をめぐって、最大9000億円の債務保証を行うことを検討していると、15日付の英紙フィナンシャル・タイムズが伝えたという報道がありました。フィナンシャル・タイムズの記事によれば、政府は半導体の技術流出を恐れ、債務保証によって、産業革新機構などによる東芝メモリ買収を後押しするねらいがあるというんですね。

「そのような事実はない」と、菅義偉官房長官は、昨日の閣議後の会見で否定しました。ちなみにフィナンシャル・タイムズは現在、日本経済新聞傘下にありますが、日経新聞も菅さんの「報道にあったような事実はない」というコメントを掲載しました。

真偽は別にして、こうした報道が出たこと自体に、私は意味があると思います。つまり、火のないところに煙は立たぬ、です。


※5月15日の東芝の会見の様子

そもそも、今回の報道は、日本政府の“観測気球”の可能性もあると思いますね。

原発などの社会インフラや半導体など、サイバーセキュリティや防衛問題、国家政策などに絡む事業に対し、国が大型の債務保証をする例は、あっておかしくはない。政府の関係者が、ちょっと情報を出してみて、世論がどう反応するか、感触を確かめているとしても不思議はないわけです。

東芝関連で、国が「債務保証」するといえば、東芝の海外原子力子会社で先日破産申請した米ウェスチングハウスが手掛けるジョージア州の原発ですよね。

米国エネルギー省は、この原発を運営するサザン・ニュークリア社に対し、約83億ドル(約9500億円)の債務保証枠を設定しています。つまり、このプロジェクトが頓挫して、サザンの債務返済が滞った場合、米国が債務を肩代わりする。ジョージ・W・ブッシュ政権下において、1979年のスリーマイル島事故後、米国で初となる原発の新規建設を、国が後押しをした形でした。

米国政府は、ジョージア州での2基の原発で150万世帯の電力が供給でき、建設工事で約4600人、運用が始まれば約750人の雇用が生み出されるとアピールしています。

今回報道にあった9000億円という額は、米政府がサザンに対して行っている債務保証と同規模ですが、東芝の場合はどうでしょうか。

東芝の上場廃止、あるいは破綻となれば、社会的影響は小さくない。あるいは、フィナンシャル・タイムズの報道の通り、半導体の技術流出を懸念してのことかもしれません。また、何度も指摘してきたことですが、福島第一原発事故の廃炉処理を着実に進めるために、東芝の技術は必須ですから、破綻を避けたいということもある。

報道されたような債務保証がなされるかどうかは、わかりません。ただし、かりにもそのようなことがあれば、銀行団は安心して融資を継続させるでしょうね。

半導体事業をめぐっては、先日も触れた通り、東芝と協業相手の米ウェスタンデジタル(WD)とのギクシャクもあります。東芝は、WDの四日市工場のデータへのアクセス制限を見送りましたが、両社の間はいまだに緊張しています。

この件を巡っては、経済産業相の世耕弘成さんが、昨日の記者会見で「東芝とWDの連携は非常に重要。いたずらに対立するのではなく、密接なコミュニケーションをとってもらいたい」としつつ、「四日市に技術と雇用が残るかを注視している」と発言しています。もっとも、「民間企業の交渉事であり経産省が間に入ることはない」というのが、建前です。

シャープが台湾の鴻海精密工業に身売りしたときのゴタゴタが蘇りますね。

いずれにせよ、半導体も原発も、防衛問題や経済政策に絡む巨大なビジネスです。さまざまなウワサや憶測が飛び交うのは、当然です。両国政府、企業、銀行などを巻き込んで、水面下で虚々実々の駆け引きが繰り広げられているのは、間違いないですね。

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