東芝は、半導体子会社「東芝メモリ」の売却をめぐり、経済産業省の主導する「日米韓連合」と優先的に交渉することを決定しました。まずは、経営再建に向けて大きな一歩を踏み出したといえるでしょうね。
ご存じのように、東芝は21日、半導体メモリ事業の売却先について、産業革新機構のほか、政府系の日本政策投資銀行、米投資ファンドのベインキャピタル、韓国半導体SKハイニックスなどによる「日米韓連合」と優先的に交渉を進めることを決めましたよね。
東芝には、時間がありません。2018年3月末までに売却を終えなければ、2期連続の債務超過となり、上場廃止となる公算が大きいからです。「東芝メモリ」の売却手続きが順調に進み、2兆円程度が拠出できれば、経営再建に向けた一歩になるというわけです。
気がかりなことが2つあります。一つは、経済産業省主導の電機メーカーの救済は、エルピーダメモリにしても、ジャパンディスプレイにしても、成功した試しがないことです。
かりに、日米韓連合が買収に成功したとしても、実際の経営には課題が山積しているといっていいでしょう。半導体業界で生き残るには、年間3000億円程度の設備投資を毎年のように続けなければならないといわれます。“寄合所帯”の日米韓連合にそれができるかどうか。誰が意思決定をするのか。スピード感をもって経営できるのか。前途は多難といわざるを得ないでしょう。
競合のサムスン電子は、年間1兆円の設備投資をしてくるでしょう。この差をどう考えるか。日米韓連合が半導体メモリで2位の座を維持するのは並大抵ではありません。
もう一つの気がかりは、三重県四日市市の工場で協業している米ウエスタンデジタル(WD)との関係性ですね。
WDは、「東芝メモリ」の売却について、契約に違反すると主張して、売却の差し止めを国際仲裁裁判所や米裁判所に訴えてきました。
WDは21日に公表した声明で、「同意なしに同事業を第三者に譲渡する権利はない」と主張。「裁判を通して合弁会社の利益を守る」と強調しています。
革新機構や日本政策投資銀行は、東芝がWDとの対立を解消することを出資の条件にあげています。つまり、WDとの紛争が解決しない場合、売却手続きが頓挫する可能性もゼロではないということですね。
東芝とWDの間には、微妙な問題があるのは確かですが、どこかで落としどころを見つけて和解の道を探るしかない。というのも、両社が争っている間にも、半導体は日進月歩で進化し続けているからです。
争いが泥沼化すればするほど、じつは競合のサムスン電子に有利な状況が生まれるという事実を忘れてはいけませんね。
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