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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

東芝の〝原子力トップ〟志賀氏は、なぜ無言を貫いたのか

ひな壇の後方には、東芝前会長の志賀重範氏がいました。28日に開かれた東芝の定時株主総会でのことです。

※志賀重範氏(2016年5月撮影)

東芝は28日、定時株主総会を幕張メッセで開催しましたが、注目を集めたのは、東芝の前会長で、原発事業の最終責任者だった志賀氏が姿を見せたことなんですね。

志賀氏が公の場に登場するのは、米国の原発建設で巨額の損失が発覚して以来、初めてですからね。

米原発事業の責任者であるにもかかわらず、以来、志賀氏が説明責任を果たすことは、ついぞありませんでした。じつに、ヘンな話なんですね。

株主総会が開会してから2時間15分、株主から「東芝がこのような状況に陥ったのは原発が原因です。原発の責任者の志賀さんから一度も説明がないのは、なぜなのか。役員は仲良しクラブなのか。当事者のトップとして、いままでしてきたことの説明を聞きたいと思います」という声が上がりました。

会場からは、拍手が沸き上がりました。ここで志賀氏が巨額損失について説明責任を果たせば、事態は大きく動き出すのは間違いありません。

ところが、期待は裏切られました。議長の綱川智氏は、「ウエスチングハウスの件は、志賀も含め、会社を代表する私からお詫び申し上げます。志賀は2月14日に代表取締役会長を辞任しました。本総会をもって退任します。今後、このようなことがないようにしたい」と発言し、志賀氏に発言させなかった。

東芝は、志賀氏には話をさせないことを事前に決めていたのかどうか。つまり、志賀氏の口を封じたのか。それはわかりませんよ。でも、これで志賀氏の口から米国の原発建設をめぐる諸々の疑問点が公式の場で語られることはなくなったわけですね。

志賀氏は、原子力技術者として東芝に入社後、一貫して原子力畑を歩み、2006年に東芝が買収したウエスチングハウスでは社長、会長を歴任。2017年2月、損失の責任を取って会長を辞任し、執行役に降格となりました。

ご存じのように、東芝は、決算発表を延期し、監査法人の承認がない「意見不表明」の決算を含めた四半期報告書を関東財務局に提出しています。

なぜ、「意見不表明」なのか。監査法人のPwCあらたが、東芝の15年3月期、16年4~9月期決算の適切さに懸念をもっているからです。

東芝は16年12月27日、2017年3月期に米国の原子力発電事業で数10億ドル(数千億円)の減損損失が発生する可能性があると発表しました。15年末に買収した米原発関連建設サービス会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)の取得価格と純資産の差にあたる「のれん」が膨らんだためと、東芝は説明しています。

しかし、巨額の減損が突如として発生するわけがない。そもそも、S&Wの買収は、米国での原発事業がうまくいっていないことを隠すために行われたともされている。そこに、どんなからくりがあったのか。

志賀氏は、どこまで裏の情報を知っていたのか。いや、責任者なのですから、知らない方がおかしいですよね。

同27日の記者会見の場に、志賀氏の姿はありませんでした。綱川氏とともに説明にあたった常務で原子力事業部長の畠澤守氏は、「本来なら、志賀とロデリックが説明すべきところですが、損失額の精査のため米国で作業中であります」と語るにとどまりました。

監査法人が問題視しているのは、東芝の経営陣がいつの時点で損失を知ったのかということです。そのことが明らかにならなければ、決算発表の延期をめぐる問題にも決着がつきません。

かりにも、問題が前の年度にさかのぼることになれば、過年度訂正の必要から、2016年3月期の有価証券報告書を8月10日の期限内に提出できない可能性もあります。

WHの内情をもっともよく知る志賀氏が、公の場に登場するのは、おそらく今回が最後だったと思われます。繰り返しになりますが、今回、志賀氏による説明の機会が失われたこと、いや、だんまりを決め込んだことで、東芝の再建への視界は、閉ざされたままとなってしまったといっていいのではないでしょうか。

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