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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

東芝の車谷体制による本格再建への道筋

東芝が4年ぶりに黒字に転換しました。子会社の東芝メモリの売却はいまだ完了していませんが、車谷体制は、まずまずのスタートを切ったといえそうです。

※東芝代表執行役会長CEOの車谷暢昭氏

東芝は15日、2018年3月期連結決算を発表しました。最終利益は、8040億円となり、4年ぶりに黒字に転換、7年ぶりに過去最高益を更新しました。

利益を押し上げたのは、元子会社で破綻した米原子力大手ウェスチングハウス関連の資産売却効果などです。財務が改善されたことで、債務超過は解消され、東京証券取引所の上場維持が確定します。

「これまでステークホルダーの皆さまには大変、ご心配をおかけしましたが、危機的な財務状況は解消することができました」と、東芝社長の綱川智氏は決算会見の席上、述べました。

同時に発表された19年3月期の業績予想は、売上高が前年比8.8%減の3兆6000億円、営業利益は9.3%増の700億円、純利益は東芝メモリの売却益を織り込んで33.1%増の1兆700億円を見込んでいます。ただし、東芝メモリの売却については、前提となる独占禁止法上の承認が中国当局から得られておらず、先行きは不透明です。

この日、東芝は、「東芝Nextプラン」と名づけた中期経営計画を年内に公表すると発表しました。説明にあたったのは、この4月に代表執行役会長CEOに就任した車谷暢昭氏です。

車谷氏は、元三井住友銀行副頭取で、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズの日本法人会長という経歴を持ちます。

つねづね、東芝の再建には、外部出身の経営トップを迎えることが不可欠だと考えていましたが、車谷氏はその命を帯びて、いよいよ東芝の経営再建に乗り出すことになります。

再建に必要なのは、なんといっても新たな収益源の確保です。というのも、医療機器や半導体メモリ事業の高収益部門を切り売りしてきた東芝には現在、これといった稼ぎ頭がないからです。エネルギーやインフラ事業も収益性が高いとはいえません。

「グローバル企業に匹敵する収益基盤をつくります」と、車谷氏は会見の席上、語りました。

「東芝Nextプラン」では、「基礎収益力強化」「事業別の変革プラン策定」「リカーリング型事業への構造転換」の三段階を経て、東芝の再建を目ざします。

指摘するまでもなく、東芝には100年の歴史があります。100年の歴史の“アカ”を拭い去ることはできるのか。しかも、不正会計問題によって業績もフランドも大きく毀損しました。傷を負った東芝を再生することはできるのか。

その意味で、「東芝Nextプラン」の第一段階として、「基礎収益力強化」を打ち出したのは、賢明といえるでしょう。

まずは、基礎収益力を強化し、足元をしっかり固めたうえでなければ、事業構造改革などできませんからね。

「基礎収益力強化」では、原価低減のほか、筋肉質な組織づくりに向けた施策を実行する計画です。「いちばん早いのは、一般経費の削減です。調達費の見直しも進めていきます」と、車谷氏は説明しました。

注目したいのは、「基礎収益力強化」の施策の中で「若手Nextプロジェクト」を取り入れることです。車谷氏は、「『東芝Nextプラン』で5年後の東芝のあるべき姿の基礎をつくる」といっていますが、5年後の主役は、まさに現在の若手社員です。若手社員による「若手Nextプロジェクト」が5年後の東芝を支えるためにどんな収益源を開拓するか。注目したいところです。

5月下旬以降、車谷氏は、各事業部長と膝詰めで、ゼロベースの「事業別中期戦略」を策定する計画です。

「私は、外部からまいりましたので、しがらみにとらわれずに、話し合うことができると思います」と、車谷氏は語りました。

目ざすのは、“切り売り型ビジネス”から、販売後の保守などで継続的に利益を得るリカーリングビジネスへの転換です。AIやIoTを活用したデジタルトランスフォーメーションも視野に入れています。

果たして、車谷氏は、東芝を再建することができるのか。カギを握るのは、車谷氏が、外部からやってきたことを強みに、大胆に遠慮せずに取り組みを進めることではないでしょうか。また、東芝の企業体質を根本的に変えるために、“毒”のある発言をして、組織に揺さぶりをかけることも大切になってくるはずです。

車谷氏は、不正会計問題を振り返っての教訓として、次のように語りました。
「透明性確保と社内コミュニケーションについては、気にかけており、できるだけ多くの人と話をするようにしています。全員で納得して改革を進める、一体化プロセスを重視しています」

過去を振り返れば、石川島播磨工業出身の土光敏夫氏も、コスト削減などに剛腕をふるい、東芝を再建に導きました。車谷氏もまた、改革に剛腕をふるえるかどうか。これは、大きな課題ですね。

東芝が本当の意味で経営再建にこぎつけるのは、まだまだ時間が必要です。先は長いといえるでしょう。危機を乗り切ったとはいえ、安心はできません。だいいち、「東芝Nextプラン」の大前提となる、東芝メモリの売却がまだ決着していないのですからね。

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