パナソニックは13日、ビジネスイノベーション本部が手掛ける、IoT、AI、ビッグデータを使った新規事業創出について、説明会を行いました。
パナソニックが研究開発体制を見直し、本社研究部門を再編して「イノベーション推進部門」を設置したのは、昨年4月です。そのなかに、ビジネスやサービスのイノベーションを担う組織として「ビジネスイノベーション本部」を置きました。
ビジネスイノベーション本部の本部長は、同4月、独SAPからパナソニック入りした馬場渉さんです。彼は、ビジネスイノベーション本部を「クロスバリューイノベーションを実現する場」と位置付けています。つまり、パナソニックが次々にイノベーションを起こす企業になるための「牽引役」なんですね。
さらに、この4月、ビジネスイノベーション本部のなかに、「事業開発センター」が置かれました。パナソニックの映像技術やセンシング技術、AIなどの技術を、「クロスバリュー」し、ビッグデータを活用するソリューションを提供していくといいます。
※事業開発センター所長の島田伊三男さん
さて、説明に立ったビジネスイノベーション本部事業開発センター所長の島田伊三男さんは、まず、AIやIoT、ビッグデータが普及しつつある現状について、認識を次のように説明しました。
「とりあえずデータを集めても、99%はゴミ。そのなかから宝物となる情報を取り出すのに、時間とお金がかかる状況です。今後は、いかに不要な情報を素早く捨てるか。あるいは、いかに必要な情報をねらってとりにいくかにこだわっていきたいと考えています」
具体的に、①画像エッジコンピュータによるAIセンシング&サービス事業、②スマートエイジングケア事業、③コールドデータセンタサービス事業の、三つの事業が説明されました。
ちなみに、説明者はみなさん、Gパンやチノパンにシャツというスタイルで、肩の力が抜けていましたよ。
なかでも、「PaN/Vieureka(パン/ビューレカ)事業」について、少し詳しく見てみましょう。
まず、ビューレカです。「レンズのついた画像エッジコンピュータ」、つまりカメラ付きコンピュータを、店舗や工場などの施設に設置し、AIセンシングデータをとる。そのデータをクラウドに収集し、マーケティング分析や作業行動分析に活用してもらうビジネスです。つまり、データを売るんですね。
※画像エッジコンピュータのビューレカ
その際、AIを使って、用途ごとに必要な情報をねらって取得する。例えば店舗であれば、入店した人の「人数」や「属性」、「滞在時間」を検知します。そして、いらない情報は捨て、結果だけをクラウドに集める。そうすることで、遠隔から、時間ごと、売り場ごと、店舗ごとなどの統計情報が確認できるようになります。メーカーや卸、店舗運営にとって、貴重な情報です。
将来的には、介護現場などに特化したビューレカや、屋外で使えるビューレカ、ディープラーニングエンジンを搭載したビューレカなどを導入する。さらに、ソフトウェア開発キットを公開して、ビューレカ上で他社サービスを展開できるようにするといいます。
次に、「パン」です。簡単にいえば、いわば「カメラシェアリング」です。例えば、遊園地や仏閣などの観光地において、「あそこから写真が撮れたらいいのに!」という、高所などの絶好のポイントに、カメラを設置する。そのカメラを一般人がシェアリングする。IDつきの撮影カードを使って撮影し、自分が撮ったデータだけをダウンロードできます。「これまでにないアングルからの撮影体験を誰でも楽しめる」サービスです。
すでに、相模湖プレジャーフォレストのアトラクションや、淡路島のニジゲンノモリなど、18か所に設置され、実用化されています。2020年末までに500か所以上に設置するといいます。
将来的には、AIを使ってベストショットを自動撮影したり、遊園地で遊んだときなどに、RFIDタグなどを使って自分が写った写真だけを自動で集められるようなサービスに進化させたいといいます。
また、撮影箇所が増えれば、そのデータは、団体旅行やイベントの誘客、あるいは人気スポットの分析などにつなげられます。
「新規事業」といっても、いまの時代、「ラジオ」「テレビ」のような、“モノ”だけの新規事業は成り立ちませんよね。求められるのは、ハードウェア、ソフトウェア、サービスを一体化し、継続的に利益を上げられるビジネスモデルをつくることです。
そのためには、カンパニーや事業部のタテワリを廃すことが、大前提になる。馬場さんのいう「ヨコパナ」ですよね。ビジネスイノベーション本部は本社直轄ですが、四つの社内カンパニーと兼任の社員も多いといいます。
ビジネスイノベーション本部は、パナソニックの次の時代の柱となるビジネスを生み出すことができるか。クロスバリューイノベーションを実現する場として、真価が問われます。