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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

「S660」はホンダの危機感の表れ

今月2日、軽スポーツカーのホンダ「S660」が、
鳴り物入りで発売されました。消費税込で198万円から238万円です。
月間販売目標は、800台に過ぎませんが、
スポーツカーといえば、F1参戦の歴史に代表されるように、
「ホンダらしさ」の象徴といっていいでしょう。
軽とはいえ、ホンダブランドの顔となるのは間違いありませんよね。
発売前から消費者の注目度は高く、ホンダも、相当な力の入れようでしたな。

「S660」の発表会で話題となった一つが、
LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー=開発責任者)の椋本陵さんの若さです。
ホンダ史上最年少という26歳です。
工業高校を卒業後、2007年に入社、試作車のモデルをつくっていました。
10年に行われた新商品の社内公募に「軽スポーツカー」を応募し、グランプリを受賞。
しかし、当時、彼の応募作品は製品化の予定はなかった。

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※取材に応じる椋本陵さん

ところが、社長の伊東孝紳さんが試作車に試乗し、開発を決断した。
そして、発案者である椋本さんがLPLとして抜擢されたというわけです。
取材した印象では、はつらつとした、好青年でした。
「小さい子たちにも『クルマってかっこいいな』と思ってもらえる
実体験を増やしていきたい」と語っていました。

LPLは、新車の開発の全責任を負う、とてつもない役割です。
車メーカーの技術者のあこがれのポストです。
本来、強いリーダーシップをもった人でないと、
のべ数百人がかかわるプロジェクトを推進できませんね。
常識的にいって、彼の若さでは、LPLはムリです。
ホンダはどうしたか。LPL代行として、
ベテランの安積悟さんと深海政和さんに、椋本さんをサポートさせました。
まあ、これは、当然ですわね。

代行のサポートがあったにしても、26歳のLPLは、インパクト抜群です。
私自身、聞いたことがありません。まさに前代未聞です。
若者を「二階に上げて梯子を外す」、強引な育成法で知られるホンダの、
いかにも典型的な人事といういい方もできます。

私は、この抜擢人事は、2つの側面があると思います。
一つは、社外への「ホンダらしさ」のアピールです。
そしてもう一つは、社内に対する強烈な危機感の発信です。
宗一郎以来、“とんがった”クルマで存在感を示してきたホンダですが、
近年、無難にまとまり、商品に「ホンダらしさ」が感じられないと指摘されています。
私も、そう感じています。
それに対し、自分たちのあるべき姿を、この人事と商品に込めた。
無難な道を選ぼうとする社員に、ハッパをかけたわけです。

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※「S660」の開発メンバー

現在のホンダは、リコール問題や、エアバックの品質問題に揺れています。
ホンダは、あまりにも大企業になった。
結果、正直、「小さなトヨタになった」と思います。
つまり、組織の官僚化が進んだ。
こうした現状に対する危機感が、異例ともいえる20代のLPLを生んだ背景です。
新社長の八郷隆弘さんのもと、消費者の信頼を取り戻し、
さらに、宗一郎のDNAである「ホンダらしさ」を追求していかなくてはいけない。
「S660」は、ホンダ復活の一つの狼煙になるでしょう。

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