東芝、経産省、トランプ米大統領……。共通項は、“情報隠し”ですかね。このところ、情報公開をめぐるトラブルが続いています。基本的に、隠して得することは何もありません。それは、東芝の原子力事業がここまでこじれたことからも明らかです。
※東芝社長の綱川智氏
不正会計と巨額損失で経営難に陥っている東芝は、2月14日正午に第3四半期の決算を発表する予定でした。ところが、「本日12時時点では開示できておりませんことを、お知らせします」と自社ホームページで開示の遅れを告知。同日午後4時に実施する予定だった決算記者会見が開かれたのは、午後6時30分でした。
「このような事態になり、株主、投資家をはじめとするステークホルダーのみなさまには多大なご迷惑をおかけしましたこと、あらためて深くお詫びを申し上げます」
会見の冒頭、集まった記者たちを前に、社長の綱川智氏は深々と頭を下げました。
記者からは、決算開示の遅れについて、「非常に迷惑しています。反省していただきたいと思います」という厳しい声があがりました。
もとより東芝は、巨額損失問題の真っただ中にあります。決算が定刻に開示できないという情報が流れると、経営の先行きにさらなる不透明感が高まり、同日の東芝株は売り注文が殺到しました。
じつは、東芝の決算開示の遅れは、今回が初めてではありません。15年の不正会計発覚の際は、同年5月に予定していた決算発表が9月までずれ込みました。
この場合、東芝が意図的に“情報隠し”をしたわけではないかもしれません。しかし、そもそも東芝には隠蔽体質があるといってもいいのではないでしょうか。
現在、東芝が解体の危機にあるのは、原子力子会社ウエスチングハウス(WH)を6600億円で買収したことが発端ですが、WHの「のれん」2600億円を減損したにもかかわらず、原発事業の見通しは変わらないといい続けました。
17年2月14日、東芝はようやく、WHの買収が債務超過の原因であることを正式に認めました。
クレームや失敗など、企業には、多かれ少なかれ、見せたくない悪い情報があります。組織内部に囲い込まれている情報も少なくありません。
大切なのは、それをいかに意識的に開示するかということです。とはいっても、開示すればいいというわけでもないんですね。
2月16日、ANAホールディングスは「重要な経営課題について午後3時から緊急会見を行う」と発表しました。これを受けて、市場ではさまざまな憶測を呼び、ANAホールディングス株は一時、前日比7%安を付けました。
企業が緊急に記者会見を開かなければならない状況というのは、喜ばしいことではありません。ましてや、毎日のように、東芝危機説が流れる折から、ANAが「緊急会見」を行うとなれば、すわ不祥事か、はたまた謝罪会見かと、市場がネガティブな反応をしても不思議はありません。
ふたを開けてみれば、ANAホールディングスの「緊急会見」は、篠辺修社長の退任を受けて、平子裕志取締役が後任に就くという、社長交代の発表だったわけで、とんだ人騒がせと一件落着しましたが、企業からの「緊急会見」の一報が、それほどまでに市場を混乱させる要因であることがわかります。
情報をいかに的確に開示するか。簡単ではありませんが、それでも、やはり情報を開示することは大切です。
経済産業省は「情報管理を徹底する」として、官庁内のすべての執務室の扉を日中の勤務時間も施錠する措置をはじめました。へんな話ですよね。とても、情報公開が求められる官庁のやることではありませんね。
また、米国では、トランプ政権がスパイサー大統領報道官による定例記者会見を急遽、カメラなしの「オフレコ取材」に変更したり、取材の場からCNNテレビやニューヨークタイムズ紙などトランプ氏に批判的な米メディアを締め出しています。
こうしたやり方がどのような結果をもたらすか。
少なくともいえるのは、見えないことに対して、人は不安を抱き、疑心暗鬼に陥るということではないでしょうか。
逆にいえば、見せることこそが信頼につながるということではないでしょうかね。
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