製造業は今日、大きな変化の荒波の中にあり、これまでの“常識”では生き残っていけない。パナソニックの“常識”を超えた改革の象徴が、社内カンパニー「コネクティッドソリューションズ(CNS)社」です。
パナソニックは、ソリューション事業の中核を担う顧客密着型事業体制の構築を狙いとして、この4月、「CNS社」を設立しました。
重点事業領域は、航空、製造、エンタテインメント、流通、物流、パブリックで、従来の商品軸ではなく、顧客起点のソリューション事業への転換を目ざしています。
パナソニック社長の津賀一宏氏は、「CNS社」の初代社長に同窓の大阪大学工学部出身の樋口泰行さんを引っ張ってきました。樋口氏は、次期社長候補の一人に数えられています。
果たして、パナソニックはこの大変革を全うできるのか。以下は、19日に開かれた懇親会での樋口さんのコメントです――。
日本企業は終身雇用で、外から幹部レベルが採用されることはまだまだ少ない。しかし、外の経験がある人が入らないと変革が進まない。パナソニックには、変革を加速しなければいけないという危機感があったのかもしれません。
パナソニックには12年間、お世話になりました。それに加えて、外資を経験し、シャープに物事を考えるようになりました。日本企業と外資と両方がわかるということで選ばれたのかなと思います。
いろんな会社を経験してきました。例えば、再生機構でのダイエーの変革があります。国をあげた改革に、コンサルタントや弁護士など、プロといわれる人が関与しました。そこで感じたのは、プロといわれる人たちは、一人ひとりとしてはプロフェッショナルなのですが、現場にしてみれば、親和性がない。現場が腹落ちしなければ変革は進まないということです。
この人のいうことだったらやりたいというような共鳴できるリーダーがいないと現場は変われない。魂の入った変革はできないということです。もちろん、ズタズタになっている会社は、劇薬も必要かと思いますが、一時的には業績が上向いても、あとが続くかどうかはわからない。
本社が大阪では、なかなかベンチ―マークがしにくい。時代錯誤に陥りやすい。経営者レベルは外との交流があるけれども、現場まで含めるとなかなか外との交流ができない。
むずかしいのは、インターナルな変革です。理論的な方向性をつくるのは簡単ですが、現状に応じたかたちで全員が腹落ちするのはむずかしい。戦略策定や組織変更を無意味に繰り返すのではなく、一歩一歩ステップを踏みながら、現場に着地する変革を進めていきたい。
製品中心、部分最適の発想をくずしていかなければいけない。事業部連携というよりも、お客さま起点に逆算していくことが大事だと思います。
東京にカンパニー本社を移転し、フリーアドレスにします。デザインセンター、イノベーションセンター、販売組織などを融合するオフィスをつくります。創業者のいう“前垂れ精神”でお客さまの前面にみんなで出ていきます。
ハードウエアの単品の性能がいくら上がっても、付加価値はつきにくい。アジアの新興国と同じところで勝負してはレッドオーシャンに入ってしまう。勝てるエリアを見つけ、差別化できる要素技術を追求していく。単品ではなく、組み合わせで付加価値を高めていきます。
お客さまのお困りごとから組み合わせを逆算できるソリューション会社にならなければいけない。ラストワンマイルの期待値の高いところに道があります。
組織がたこつぼでは、つながることはできません。もっともっと組織がやわらかくならなければいけない。組織文化をオープンにしなければいけない。
――以上が、樋口さんのコメントですが、私が注目しているのは、樋口さんが「プロの経営者」として、どこまでパナソニック、ひいては日本の会社を変えられるかということです。
生え抜きの経営者が会社を変えられないのであれば、日本の会社は、外部からの幹部登用が避けられない。樋口さんが成功すれば、日本企業の経営者育成のあり方は大きく変わっていくのではないかと思いますね。
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